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  • 2016/10/03 掲載

急増する「訪問看護」とはいったい何か? 日本医療の「惨状」を救えるのか

新連載:医療・介護のIT化最前線

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ここ数年で急激にその数を伸ばし、今や在宅医療の中核を担うことを期待されている「訪問看護」。訪問「介護」と勘違いされることもあるが、医療サービスを手がけるのが最大の特徴で、超高齢社会の現代日本にはなくてはならない存在になりつつある。そもそも訪問看護とはどんなサービスで、なぜ日本の医療に必要なのか。高齢患者の受け皿として、また医療費抑制の手段として期待される訪問看護について、その理由と役割、そしてビジネスとしての魅力を解説する。さらに、諸外国の訪問看護の現状から、日本の今後の展開を占ってみたい。そこには、進む高齢化とそれによる医療費の増大にあえぐ日本の医療の窮状があった。

インキュベクス 代表取締役 上村 隆幸

インキュベクス 代表取締役 上村 隆幸

インキュベクス 代表取締役。1965年神奈川県横浜市生まれ、産業技術大学院大学在籍。1998年、起業コンサルタント業を開始し、以来2500社を超える起業支援を手がける。さらに、在宅医療のニーズの高まりを受け、2012年から訪問看護ステーション開業運営支援を開始。その支援先は民間企業から介護事業者まで全国600社以上。超高齢社会における幸福な将来ビジョンを描くことを目指している。

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訪問看護ステーション数はここ5年で1.5倍に急増している

株式会社が経営する医療ビジネス、訪問看護

 訪問看護とは、看護師などが利用者(患者)の住まいを訪問し、看護を提供するサービスである。介護予防支援や生活の介助から健康状態のチェック、リハビリ、医療的な処置、家族へのアドバイス、看取りに至るまで多様なサービスを提供し、利用者が望む生活をできる限り質の高い状態で支える。こうした訪問看護を提供する事業所は、訪問看護ステーションと呼ばれる。

 耳慣れない方も多いと思うが、実際、訪問看護が増え始めたのは最近の話だ。訪問看護ステーションの数は2000年から10年間ほど5,000か所程度で横ばいの時期が続いた。転機が訪れたのは2012年の報酬改定で、当時6,298か所だったものが2016年4月には9,070か所にまで急増した。

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指定訪問看護ステーション数の推移
(出典:一般社団法人全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーション数調査」)

 急激な拠点数の伸びにも表れているように、一部の企業と経営者が訪問看護へのビジネスチャンスを感じ始めたのが2012年だった。算定できる単位が他の介護サービスに比べ高めに設定されたからだ。これを機に報酬以外の魅力も着目され、特に民間企業(株式会社)による新規参入が加速した。

 訪問看護は売上のほとんどが保険によるもので、売上の回収リスクが低く、在宅医療介護の中核を担うことで社会的な貢献度も高い。また、医療保険(健康保険)と介護保険の両方を扱う極めて珍しいサービスであるが、営利法人(株式会社)でも開業できる。

 こうした背景により株式会社の訪問看護参入が爆発的に増加したが、それでもなお、在宅医療のニーズは満たされていないため、市場の拡大は継続している。さらに、企業の一部が先導する形で人材育成や業務管理、インフラ等のイノベーションも発生しており、注目度は高い。ただし、医療ビジネスというイメージがハードルとなるせいか、一般の関心はまだそれほどでもない。

訪問看護は「介護」か?「医療」か?

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 訪問看護はしばしば「訪問介護」と混同・勘違いされる。訪問介護が訪問看護よりも圧倒的にポピュラーなほか、訪問看護でも介護保険が使われることや、業務も入浴や排泄の介助、清拭など、一部類似しているなど、紛らわしい部分もあるためだ。

 2つの違いはいくつかあるが、まず訪問介護ではホームヘルパー(訪問介護員)が訪問するのに対して、訪問看護では看護師などが訪問することが挙げられる。また、訪問介護は介護保険を使うが、訪問看護は医療保険と介護保険の両方を使い、算定できる報酬の単位も高いといった特徴がある。

 このように、訪問看護には「医療」の要素だけでなく「介護」の要素もある。訪問看護を提供するにはかかりつけ医の「訪問看護指示書」が必要だが、これは「医療」の要素だ。指示書は、医療保険、介護保険、どちらの場合も必要だ。介護保険の場合にはさらにケアマネージャー(介護支援専門員)が作る「ケアプラン」も必要になる。これはもちろん「介護」の要素である。

 厳密に言えば、訪問看護は「医療」と考えるのが自然だが、実態は「2つの中間」というのが正確だ。訪問看護と訪問介護を比べると、例えば同じ入浴や排便の介助を行う場合でも、訪問看護はより医療的な専門性の高い介助や処置が可能だ。

 看護師は、介護職では提供が禁止されている医療行為の一部を提供できるため、より重い症状の利用者に対応できる。そして介護の領域も一部カバーすることで、「医療」と「介護」のシームレスな提供に貢献している。

 これまでの医療の中心は病院であり、その業務も医師を中心として、看護師、理学療法士、作業療法士といったリハビリ職、薬剤師などが周囲を固める構造だった。新たに医療の中心になりつつある在宅では、医療の各専門家はバラバラの事業所に散らばっている。

 もちろん在宅でも医師の指示書は必要だが、少数の医師がバラバラの事業所をまとめることは難しい。そこで、機動力があり「医療」の領域にも「介護」の領域にも係る訪問看護ステーションが、地域の医療介護関係者の連携と調和を図る、中心的な役割を期待されている。

【次ページ】追いつけるか?世界の最先端訪問看護

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