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  • 2018/09/13 掲載

圏域行政とは何か? 新たな行政組織に市町村が戸惑うワケ

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政府は複数の市町村で構成する行政組織「圏域」を新たな行政単位に位置づける議論を本格化させた。急激な人口減少で行政サービスを維持できなくなる市町村が出てくることに対応するのが狙いで、第32次地方制度調査会で圏域を新しい行政単位にするかどうか検討し、安倍晋三首相へ2020年までに答申する。九州大大学院法学研究院の嶋田暁文教授(行政学)は「人口減少の中で新たな市町村の枠組みが必要ないとはいえないが、どういう枠組みにするかが問題。圏域にはメリットもデメリットもあり、慎重に考える必要がある」と指摘する。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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因幡・但馬麒麟のまち連携中枢都市圏を構成する鳥取県智頭町の中心部。
圏域を新たな行政単位とすることには地方から不安の声が出ている
(写真:筆者撮影)

地方制度調査会初会合で地方6団体が反発

 「圏域の法制化は、今までやってきた(市町村の)努力に水を差すことだ」(立谷秀清福島県相馬市長)、「机上の発想でなく、現場の声をしっかりと受け止めてほしい」(荒木泰臣熊本県嘉島町長)

 首相官邸で7月に開かれた地方制度調査会の初会合。自治体の首長や議会議長でつくる地方6団体の代表から圏域の法制化について厳しい声が相次いだ。

 地方制度調査会は地方6団体の代表と国会議員各6人、学識経験者18人の委員30人で構成される。初会合で安倍首相は「人口減少が深刻化する2040年を視野に入れ、圏域における市町村の協力関係など必要な地方行政のあり方について審議を進めてほしい」と述べた。
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 市町村の枠組みを超えた広域連携は既に、さまざまな形で実施されている。地方自治法に基づくものだけで広域連合、一部事務組合、協議会、連携協約などがあり、水防法など個別法に基づくものや自主的に展開されているものを含めると、その数は膨大になる。

 政府は2008年度から人口5万人程度の中心市と近隣市町村が連携する定住自立圏構想、2014年度から政令指定都市や中核市を中心とした連携中枢都市圏構想を打ち出した。

 4月現在で定住自立圏は全国に121圏域、連携中枢都市圏が28圏域生まれている。いずれも緩やかな連携で広域観光ルートの整備や公共施設の共同利用などを進めているのが特徴だ。

 これに対し、政府は圏域を行政単位と位置づけ、圏域内での施設統廃合なども視野に入れている。地方制度調査会での議論に先立ち、7月に公表された総務省有識者研究会の報告書では、圏域を法律で新たな行政主体とし、圏域単位の行政を標準にすることを提案した。

 報告書は「2040年ごろには地方の9割以上の市町村で人口減少が見込まれ、現状のままでは都市機能を保てなくなる。各市町村が全分野の施策を手がけるフルセット主義から脱却しなければならない」と明記している。

総務省研究会報告書の主なポイント

●地方の9割以上の市町村で人口減少が予想され、市町村ごとの施策では住民の暮らしを維持するのが難しくなる
●市町村が人工知能などを活用し、職員が半減したとしても機能する体制の構築が求められる
●複数の市町村で構成する圏域を法律で新しい行政単位とし、圏域単位の行政を標準とする必要がある
●圏域から離れた小規模市町村に対し、都道府県が支援する必要がある
(出典:総務省自治体戦略2040構想研究会報告書)


人口減少と高齢化が招くフルセット行政の限界

 政府が地方制度調査会を発足させたのは、地方の急激な人口減少に危機感を募らせたからだ。総務省によると、2040年の国内人口は1億1,100万人で、2015年の1億2,700万人に比べ、1割以上減ると推計されている。

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日本の人口推移と今後の予測

 年間の減少数は90万人前後。北九州市や東京都世田谷区に匹敵する人口が毎年消えることになる。65歳以上の高齢者は4,000万人に達し、ピークを迎える見込みだ。

 これに伴い、地方の市町村は9割以上が2015年に比べ、人口減少となる。減少幅は奈良県川上村で70%以上に達するほか、北海道夕張市など22市町村で60~70%、高知県室戸市など117市町村で50~60%、北海道小樽市など284市町村で40~50%と予測されている。

 政令指定都市で人口増加が見込まれるのは、東京23区と川崎市、さいたま市、福岡市だけ。逆に仙台市と神戸市で10~20%の減少が予想され、仙台市は100万都市から転落すると推計されている。

 総務省は2040年の課題として、

●税収の低下と老朽化した公共施設やインフラの増加による市町村財政のひっ迫
●高齢化社会の進行による介護施設と職員の不足
●集落機能を維持できなくなる中山間地の多発
●空き家急増による都市の空洞化

などを挙げた。市町村単独でフルセット行政を続けていたのでは、立ち行かなくなるところが相次ぐとの危機感がそこに見え隠れする。

【次ページ】広域連携を進める市町村からも不安の声

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