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  • 2019/06/11 掲載

免許返納進まぬ「高齢ドライバー」、実は「人間の尊厳」の問題だ

連載:クルマの進化が変える社会

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高齢ドライバーの事故や逆走などの危険運転が連日のように報道されている。高齢ドライバーの事故を防ぐには、単に彼らを「危険なドライバー」だと決めつけ、免許を“返納してもらう”だけでは解決しない。そこには「高齢化社会」という社会課題の解決のための視点が不可欠だ。そこで、課題解決のアプローチとして「制度改革」と「新たなモビリティ構築」という2つの方向性を提言したい。
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高齢者ドライバーの問題は「人間の尊厳」に関わる問題と理解すべきだ
(Photo/Getty Images)


「移動の自由の確保」なしに免許返納問題は解決しない

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 高齢ドライバーの問題が大きく注目されている。2019年4月に起きた池袋の高齢ドライバーによる人身事故は、犠牲者の遺族にまで報道の目が向いた。一連の報道により、事故後1カ月で運転免許を返納した高齢ドライバーは、これまでより2割も増加したといわれる。

 全国では毎日何千件もの交通事故が起きているにもかかわらず、高齢ドライバーの事故はとりわけ世間の耳目を集める。この背景の1つには、「運転が不安な高齢ドライバー」の存在は自分の親や祖父母で簡単に想像がつき、他人事とは思えず、関心が高くなりやすいことがあるだろう。

 また、従来のマスメディアに加え、インターネット上にはニュースメディアやSNSなどが乱立、以前に比べて情報が拡散しやすくなったことも大きい。これまでであれば地元の話題で終わったような事件や事故が、全国的に報じられるようになったからだ。

 先述した通り、自分の肉親が高齢ドライバーとなり、運転能力の低下による交通事故を心配している人は多い。しかし、「免許返納を促してもなかなか納得してくれない」状況にあるという話もよく聞く。

 この問題は、「高齢化社会」が抱える問題の本質に目を向けなければ、解決策は見えてこない。

 「クルマを運転する」ということは、買い物や通院の交通手段としての利便性だけでなく、自分が思うままに移動できる能力の保持を意味する。誰にも気兼ねすることなく、自分のペースで好きなところへ行ける。クルマは移動の自由を最大限に拡大できるツールなのだ。

 高齢ドライバーにとっては自分の老いや、さまざまな能力の低下を認めたくない気持ちもあるだろうし、「クルマを運転さえできれば、まだまだ自分は周囲に頼らずにやっていける」と自立の支えとなっている面もある。

 つまり、これは人間の尊厳に関わる問題なのである。

 そして免許返納を促すには、返納後の「移動の自由」をどうやって確保するかを考えることが大事なのだ。

広島県三次市における「ニコニコ便」の取り組み

 では、免許返納後の高齢者の「移動の自由」は、どのように確保すればよいだろうか。公共交通機関が充実する都心部なら、それほど不自由はしないだろうが、人口の少ない地方では、この問題はより深刻である。

 そこで、この問題の解決の糸口を探るべく、広島県が実証実験中のモビリティサービスを視察に行った。

 広島県の北部に位置する三次市は、マツダが1960年代にテストコースを開設したところで、三次駅周辺の中心部は工場も多い。

 三次駅はかつては東西と南北の路線を結ぶターミナル駅であったが、2018年に三江線が廃線になったことで沿線地域は交通の便が悪化した。そもそも廃線に至った理由が、クルマによる移動が大半となったことで、乗客の減少を招いたからだが、現在では、沿線住民の高齢化が進んだことでクルマの運転が難しくなり、多くの移動困難者を生んでいる。

 こうした三次市にあって、同市作木町の取り組みは、かなり独創的で注目に値する。NPO法人「元気むらさくぎ」は、地元農家の農業支援をはじめ、高齢者の入浴や宿泊、地元の川を利用したカヌー教室などを運営。過疎化へ向かう地方で産業を創成し、働き口を維持していく取り組みを行っている。

 そして、同NPO法人がマツダの支援のもと、展開するのが「ニコニコ便」と呼ばれるモビリティサービスだ。これは、三江線に代わって三次市が運営する市営バスのバス停までの移動をサポートするもので、スマホアプリで予約すると自宅からバス停まで1回300円という低額でクルマで送迎してくれる。

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「ニコニコ便」は移動が困難になった沿線の高齢者を送迎する取り組みだ
(写真:筆者撮影)

 このアプリ開発と車両の提供を行うのがマツダだ。同社は広島県が抱える問題の中で、クルマで貢献できるものはないかと模索した結果、このモビリティサービスへの参画を決めた。広島県と三次市、地元の交通機関運営企業などを巻き込んで地域全体の問題を解決しようと取り組む。

【次ページ】実証実験を見て感じた、モビリティ確保の問題点
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