• 会員限定
  • 2012/09/25 掲載

【IT×ブランド戦略(3)】企業運営とブランド

「どうして売れるルイ・ヴィトン」の著者が解説

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
本連載の問題意識は、「ブランドは作れるか?」という問いに対して工学的なアプローチの可能性を探ることである。前回は、ブランドという言葉そのものが大きな振れ幅で、多様な意味で使用されていることを概観したが、ブランドというひとくくりの言葉で、いきなりあらゆる理論を展開するのはいささか無理のある話だ。そこで今回は、そのパワーの原理について考えるためのステップとして、ブランドが企業活動に及ぼす影響について、その「及ぼし方」を考察したい。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

人材領域に影響を及ぼすブランド

連載一覧
 明治維新以来ブランドという言葉は長い間、そのままエルメスやルイ・ヴィトンのことを指し示し、ひいては「舶来品」という言葉とほぼ同義であった。それが1980年頃を境に急変し、たった30年ほどの間に、実に多様な現象に適用されるようになった。

 第一の変化は、高級品に限らない一般消費財に対しても適用されたことだった。そして、消費財メーカーにとって商品開発戦略・販売戦略を考える上での基本的な概念とされるようになった。そこからさらに拡大解釈は進み、「ブランド」はあらゆる企業活動を考える上で欠かせない概念となっている。

 実際のところ、企業にとってのブランド、というものを考えると、その力は商品開発や宣伝、販売に限らず、企業活動のすべての諸相に影響を及ぼしている。

 わかりやすい例をあげるとすると、例えばブランドは、採用活動に影響を及ぼしている。新卒採用に顕著な傾向だが、多くの学生が就職先を探すにあたって、まずブランドとして認識している企業を想起し、より好んでアプローチをするため、消費財メーカーや消費者向けサービス業は、そうでない企業に比べて募集コストが低くすんでいる。例えば東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドや旅行代理店のHISなどは、ちょうど求職者が大学時代に消費者として濃い接点を持つため、就活生達からの注目度が高い状態で募集・広報活動をスタートすることができるのだ。
photo
明治維新の元勲がルイ・ヴィトンのバッグを愛用した、という逸話が残っている
(Photo by iStock)

 しかも、ただ単に「知名度が高いから安心」という学生がたくさんやってくる、といったレベルではなく、エントリーする学生の多くが商品特性や事業内容への理解を実体験として持っており、それを通じて良いブランドイメージを持っている。これは大きなアドバンテージだ。

 マイナスがあるとすれば、良くも悪くも消費者目線で集まった志望者に、その商品やサービスの提供者へ転換してもらえるか、といったところだろうか。これは微妙な問題である。

 採用活動に限らず、いま現在その企業で働いている働き手にとっても、自分自身や自分の関わっている仕事が良きブランドの一部であると感じられるかどうかで、パフォーマンスは全く変わる。単純な話、AppleやGoogleのような有名企業で働いている、などというとそれだけで誇らしく思えるものだし、無名で力のない企業に属していると感じると、モチベーションは下がる。

 有名企業かどうかという軸はいささか表層的な話だが、深い共感のあるブランドの仕事に携わっていれば、そのブランドが提示する世界観、ビジョンへの貢献のために、「今は給料が少なくても、このブランドの未来のために頑張る」ということは十分に起き得る。

 逆に、新たなブランドが台頭してきた時、それがそのまま逆に振れる分不安定さも抱えているとも言える。以前はmixiというブランドに参画するということは誇りを与えたと思われるが、今はどうだろうか。

 Googleにしても、Facebookの成長とともに、そちらへの人材の流出がメディアに取り上げられることも増えてきた。こうした状況に対して、単純な対応策としては給与水準を高めるような施策があるだろうが、これは単純にコストを増やす話であるし、優秀な人材の心が離れている中で給料を増やすという行為は、それ自体、自社が凋落傾向にあることを自らアナウンスするようなことにもなりかねず、なかなかセンシティブな問題だ。

 企業の人材領域におけるブランドとは、ただ単なる知名度の問題ではなく、そこに参加する期待感や高揚感、使命感を含めた概念だ、と理解するのが正しいように思われる。もちろん知名度や世間的な評価ももちろん重要な一部だが、それだけでは集った人材をいかにつなぎとめ続けることはできない。

 これはそのブランドが何を掲げ、何を推進していくか、その思いに賛同できるかという、ブランドの核心に関わる問題だ。

 ともあれ、このように考えると、人材の確保というテーマにおいては、ブランドイメージは貴重な経営資源だと言える。ただし、経営資源と言うものの、金額換算が難しいという特長を備えている。つまり、そのブランド価値は「金額に換算すると○○円に相当する」という形で、貸借対照表に資産として計上することは極めて難しい。

 そうは言っても、定量的に測定できないものは工学の対象とは成り得ない。人材獲得のためにコストをどれだけ費やしているか、ということを一定基準で割戻して企業間や事業部間で比較する、本来かかるはずのコストを仮定して現在の収支状況と比較対照する、等の妥当な方法論があると思われる。これについては後日、掘り下げて議論したい。

関連タグ

関連コンテンツ

オンライン

自然検索流入数59%増 エアトリのSEO裏側 ROI改善の事例をご紹介

Webサイトを運営している方であれば、こんなお悩みがあるのではないでしょうか。 「オーガニック経由の流入数を増やしたいけど、何から手をつけるべきかわからない」 「SEO対策を進めているけど、なかなか成果が出なくて困っている」 「Web広告のROIが悪化しており、新たなマーケティング戦略の検討が必要」 このセミナーでは、そのようなお悩みを解決します。 今回は、大手総合旅行プラットフォームのエアトリ様のSEO事例をご紹介。 弊社とのお取り組み開始直後に新型コロナウイルスの感染拡大があり、広告予算の大幅縮小を余儀なくされました。 そのような状況下でも、様々な集客チャネル別の特性を考慮した上で、エアトリ様が継続されていた施策の1つが、”SEO”でした。 コロナ禍による旅行トレンドの大幅低下期間にSEO施策に取り組まれた結果、2019年の同月対比で、上位獲得キーワード数は大幅に増加しました。 順位上昇の効果で、自然検索流入数もコロナ禍前と比較し59%も成長しました。 また、コロナ禍において投資したSEOの成果が2022年以降出始めており、現在は複数ドメイン間での最適化に向けた取り組みも行っております。 今回は、WebマーケティングにおけるSEOというチャネルの特性を改めて確認しつつ、SEOの戦略ややるべき施策を検討する際のポイント、及び具体的な施策事例を、弊社インサイドセールスが丁寧に解説していきます。 ご参加いただいた方には、特典として「サイトヘルスチェックシート」をご用意しておりますので、ぜひご参加ください。

オンライン

良質なリード獲得の切り札になるBtoBのSEO戦略

BtoB向けビジネスの自社サイトを運営している方であれば、こんなお悩みがあるのではないでしょうか。 「Webを活用した効率的な営業活動が一般的になりつつあるが、そのノウハウがない」 「Webの集客を強化したいが、どう対策を進めたら良いか分からない」 「SEO対策を進めているけど、なかなか成果が出なくて困っている」 このセミナーでは、そのようなお悩みを解決します。 今回のセミナーでは、過去にも開催し大変ご好評をいただいたBtoBビジネスのサイトのセミナーを再び開催します。 様々なBtoBビジネスの事業者様とのお取り組み事例を踏まえた、BtoBサイトにおけるSEOの勝ち筋となる戦略・戦術を解説します。 これまで自社サイトでの集客を強化してきた事業者様にとっても、受注に繋がる質の高いリードの獲得には苦戦されるケースが多いかと思います。 オンラインでの集客においては、広告やSNSといった様々な手法はございますが、その中でも重要な要素となり得るのが【SEO】です。 ただし、一般的なSEOの考え方で対策しても、効果的なリードにつながらない場合も多いです。 ・BtoBとBtoCの違いはどのようなところにあるのか ・質の高いリード獲得のためには、どのような戦略を描けば良いのか ・オフライン/オンラインをどのように結びつければ良いのか BtoBサイトにおけるSEOでは、上記のような観点が重要であり、一般的なサイトにおけるキーワード選定や戦略と異なる考え方が必要です。 今回のセミナーでは、BtoBビジネスのサイトのSEOにおける基本的な戦略の考え方から、対策方法まで、わかりやすくお伝えします。 ご参加いただいた方には、特典として「ユーザーインテントチェックシート」をご用意しておりますのでぜひご参加ください。

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます