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  • 2012/10/26 掲載

【IT×ブランド戦略(4)】ブランドはいかなる力を持っているのか

「どうして売れるルイ・ヴィトン」の著者が解説

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様々な文脈で理解がされる「ブランド」。前回はブランドが企業経営に及ぼす影響の仕方に着目して、その特徴を探った。そこで着目したのは、人材領域にしろ、その他の領域にしろ、「ステークホルダーの個々人がブランドを通してあらかじめ共通のイメージを持つことで、集団としてのパフォーマンスが安定し、教育コストが下がる」という特徴であった。今回は「商品の販売・購入」という原初的なブランドの在り方に立ち返ることで、一歩踏み込んで「ブランドはいかなる力を持っているか」を考察したい。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

「ブランド」の介在しない消費の姿

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 お金を出すということは、不確実な行為だ。目の前の商品が期待する機能や効用を発揮してくれるかどうかを確かめられるのは、お金を出したあとのことであって、事前に確かめることはできない。返品やクーリングオフといった制度を利用したとしても、時間はかえってこない。よっぽどのことがあれば別だが、多くの場合はその目の前の商品を買うか、買わないか、購入者はこの二択を迫られる。大げさな表現をすると、これは「不確実な未来に対する葛藤」である。

 その傾向は、ブランドの介在しない消費活動で顕著だ。やや遠回りをして、ブランドが不在の消費がどのようなプロセスで行われるかを、喩え話で考えてみたい。

 スーパーで豆腐を買うとする。たいていの豆腐売り場には数種類の豆腐がおいてあり、お客はそのうちのどれかを選ぶ。しごく単純な話だ。

 選ぶ基準は明確だ。材料が国産かどうか、他のものと比べて、値段は高いかどうか。いつもの販売価格に対して割引されているかどうか、消費期限までの時間の猶予、パッケージされた分量は用途とあっているか、などなど。

 これらは記述できる基準である。これらの基準は、記述できるだけでなく、その人によってどのポイントが重要なのか、重要度の配分を定量化することもできる。そのうえで、全体としてユーザーにどの程度の満足を提供できているか、という分析を行うための手法も確立されている。

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明治維新の元勲がルイ・ヴィトンのバッグを愛用した、という逸話が残っている
(Photo by iStock)
 一方で、記述、定量化しづらい基準もある。例えば、ぱっと見たときの見た目やパッケージデザインも判断に大きな影響を与えるものである。ただ、それを定量的、客観的に表現するのは難しい。またこれらは、選び手に意識されない、無意識下で影響を与える要素である。

 いずれにしろ、これらの要素で構成されるその人なりの基準で、豆腐は買い物かごに入れられ、会計を済まされ、冷蔵庫に収納される。そして時が来れば料理され食卓にならび、消費される。ごくごく日常的な風景である。

 さて、その買い物について、ユーザーはどのようなプロセスを経て満足、あるいは不満を感じるだろうか?

 たいていの場合、その豆腐の品質については、ほとんど意識されないままに消費されていく。普通の人は豆腐を食べ終わり、容器をゴミ箱に捨てた時点できれいさっぱり、忘れる。

 稀に、その品質があまりに期待にそぐわなかった場合や、あるいは期待を大きく上回ったときだけは、その商品が印象に残り、支払った金額と天秤にかけられる。評価基準としては、購入した豆腐で、思い通りの料理を作ることができたか、分量はちょうどよかったか、おかしな味はしなかっただろうか、といったところだ。

 結果として、「高かっただけあって相応に美味しかった」「意外と美味しかった割に安かった」「高かったのに美味しくなかった」「安かった分、やはり美味しくなかった」といった感想が残される。

 この一連の流れは、商品の価値が、それが消費されたときに支払った金額に応じて、消費された後に評価されるということを意味している。このような世界では、ユーザーはその期待する満足度が得られるかどうかを確かめる前にお金を出す、ということが起きている。  そのような消費においては、購入者は未来の不確実性に対して幾ばくかの不安を感じており、ごくわずかかもしれないが、ストレスがかかっている。これが「不確実な未来に対する葛藤」だ。

 お金を出すということは、不確実な行為だ。

 食べ物を買うときは、味に満足できるか、満腹になるか、いい気分になることができるか、まずそれを考える。洋服を買うときは、サイズはあうか、思い描くスタイルになれるかどうか、暑さ寒さに対応できるか、着回しできるかどうかを考える。ITガジェットを買うときは、初期不良がないか、思っていたような機能が発揮できるかどうか、考える。

 もちろんいくら考えても、使ってみないことには結論は出ない。なので、えいやっと決断をして購入する。この世界で戦う限り、豆腐メーカーが成功するかどうかのポイントは、ターゲットが求める定量的な基準を満たす製品づくりを行った上で、できるだけ「決断のストレス」のかからないパッケージングをできるかどうか、ということだ。

 スーパーマーケットが行う重要な販促施策は「割引」である。家事に携わらず日々の買い物をしない人間からすると、「120円の豆腐が今だけ100円」のようなキャンペーンで、たった20円のためになぜそこまで心躍らされるのかという疑問を持ったことがある人も多いのではないだろうか。

 しかしこの「購入時における、不確実な未来に対する葛藤」から考えると、「食べた後のガッカリ感」に対するリスクヘッジとしてこの「値引き」が効いている、と考えられる。もしかしたら美味しくないかもしれない、支払った金額よりも低い価値しか得られないかもしれない。でもそれは購入時に20円の値引きをされておけば、あらかじめ帳消しにできる、というわけだ。これは「決断のストレス」を軽減する極めて直截的で有効な手法だ。

 最大多数の人々に対して、求められるスペックを満たすための材料調達、製造ラインの運用。できるだけ意思決定のストレスをかけないパッケージを行うためのマーケティング。買うかどうかを決めさせるための最後の後押し、値引き。スーパーマーケットで豆腐を売る場合、もしかしたらこれが最適なあり方なのかもしれない。しかしその消費活動は、日々の積み重ねのなかで少しばかりの「意思決定のストレス」と「豆腐ってこんなもの」というあきらめを生み出す。少し味気ない消費のあり方ではある。

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