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  • 2012/12/27

【IT×ブランド戦略(6)】ブランドが生まれるまで

「どうして売れるルイ・ヴィトン」の著者が解説

ブランド消費において、私達は、その商品やサービスの性能やコストパフォーマンスに効用を見出しているのではない。その商品・サービスを選択するための心理的、物理的、その他あらゆる障壁が取り除かれた結果、そのブランドを消費することそのものを効用として捉え始めるという、ある種の主客転倒がおきている。一体それは、いかなる心理状況なのか。その先に、「ブランドの作り方」は見出せるのだろうか。

プロジェクト・コンサルタント 後藤洋平

プロジェクト・コンサルタント 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

ブランド世界への跳躍

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 例えば、人が旧式の携帯電話からiPhoneに乗り換えるとき、その理由とは、旧式のボタン操作よりもタッチパネルのほうが正確に素早く操作ができるから、だろうか。
 はたまた通話品質や通信速度が違うという理由でそうするのだろうか。便利なアプリが沢山使えるようになるから、だろうか。デザインが未来的で格好良いから、みんなが持っているから、開発コンセプトが秀逸だからだろうか?

 全て、その通り、正解である。しかし、本質的には全く、そうではない。
 持って回った言い方をしてしまった。詳しく解説したい。「その通りである」というのは、客観的にiPhoneはこれまでの方式を覆す機能、デザインを搭載した端末であり、乗り換えた人に質問を行うと回答としてはそれらの点を挙げるだろうということだ。それ自体を否定はできないし、間違ってもいない。


 それでは、「そうでない」とはどういうことか。
 iPhoneは確かに旧式の携帯電話にくらべて画期的な機能が満載されている。しかしそれらの要素ひとつひとつがそれ自体価値を持っていて、だから乗り換えるわけではない。個々の機能だけに特化して観察すれば、それは他のデバイスや商品で実現されている。

 それでは人は一体なぜ、これまでの携帯からiPhoneへと乗り換えるのか。それがiPhoneだからだ。


 これはトートロジーでも言葉遊びというわけでもない。iPhoneというブランドはインターネットを媒介とした先端的な消費社会、コミュニケーションのあり方を提示して、その世界に参加することへの価値をプレゼンテーションしたのであり、私達はそのあり方を積極的に選択するとき、旧式の携帯電話からの乗り換えを行うのである。
 iPhoneを持つことを決意する人は、表面的には「でもやっぱりタッチパネルって使いづらいかも・・・」などと躊躇することもあるかもしれないが、心から個別機能の心配をすることはない。それは方便であって、本質的には、その世界に自分が参加するかどうか、その葛藤だけがある。


 ここまで書いてきて、「なんだ、またAPPLEか、スティーブ・ジョブズか、成功事例の後追い解説は何とでも言えるよ、いずれにしろあんな巨大ブランド、我が社とは関係ないよ」という声がいまにも聞こえてきそうな気がしてきた。
 しかしこれはブランドと効用の関係を考えるにあたって、本質的なポイントであり、知名度や規模の大小とは関係ない。具体例をあげなければ、少々伝わりづらい話かもしれない。そこで、オフィス・オーガスタという音楽制作プロダクションをその事例として語りたい。


 この名前については、ご存知の方と、そうでない方がいると思う。ジャニーズ事務所を知っている人は多いだろう。できればジャニーズ事務所を通じてこの話をスタートできれば、より多くの人にとってわかりやすい話になるかもしれない。しかし筆者はジャニーズ事務所に対してブランド的な消費をした経験がないのでそれをこのコーナーで語ることはできない。オフィス・オーガスタに対しては10年以上ファンとしての当事者意識を持っているため、それができる。これはオフィス・オーガスタを取り上げることの出来る必要条件である。では十分条件はなにか。「知らない人は知らないが、知っている人はよく知っている」。そのような事例でこそ、ブランド消費の特質を浮き彫りにしやすいということだ。ともあれ、しばらくお付き合い願いたい。


 オフィス・オーガスタとは1992年、BARBEE BOYSの解散によりソロ活動を開始したミュージシャン、杏子のマネジメント事務所として設立された。その後、山崎まさよし、スガシカオなどミュージシャンを世に送り出した。どちらかと言えば「音楽通」むけの「実力派」アーティストを擁する事務所だ。所属アーティスト本人がヒットソングを生み出すこともあるが、SMAPへの楽曲提供によって光が当たる、といった形での露出も多い。このあたりも、いかにも実力派な感じがする。


 オフィス・オーガスタがなぜ私にとってブランドなのか?それは、この事務所でデビューしていくミュージシャンは、なにはなくとも私にとって、その事実によって、すでに「買い」なのである。当然その音楽世界は未知であるにも関わらず、しかも他の音楽との比較検討を経ることなしに、その事実だけで注目し、多くの場合お金を払って音源を購入する。

 新人がここから世に出ると、古参のファンであればとりあえずは一聴し、品定めをする。「お、こんどの新人はこういう感じか」と、バーの常連客が新作のカクテルを品定めするかのような雰囲気でもある。当初そのような高みからの視点だったにも関わらず、聞いている間にその音楽世界のとりこになる。このような体験のなかで、「今度の新人は音楽の系統が違うから聞かない」「ビジュアルが気に入らないから聞かない」といった性能比較をすることを忘れていく。オーガスタの発表する楽曲、アーティストはまず買って、まず聞くことから始まるのである。


 ここからメジャーデビューするアーティスト達は、全く違う個性を持っているにもかかわらず、一定水準の音楽性、文学性、スター性を兼ね備えている。彼らのジャンル的な違いはさておき、筆者はこの独特の選定基準で選ばれた新たな音楽体験に価値を感じている。その活動の永続性を願っているからこそ、youtubeを始めとする無償のメディアで楽しむだけではなく、キチンとお金も出す。その行為に自己満足すら感じる。
 これが、「オーガスタの提案する音楽鑑賞の世界観があり、それへの参加を効用として認識している人間の行動」だ。


 ここまで読んで「なんのこっちゃ」と思う人も多いかもしれない。「オーガスタ」を別の何かに、できれば自分がブランドとして認識しているものと読み替えて考えてみていただきたい。その人にとって例えばそれは「伊勢丹」かもしれない。「東京ディズニーランド」かもしれない。「BMW」かもしれない。「スタジオジブリ」でもいい。「そこでお金を出すことに、自己満足を感じること」をヒントに自分にとってのブランドを振り返って欲しい。


 商品やサービスの性能、機能、デザイン、コンセプト、コストパフォーマンス。これらは価値を生み出す必要最低限の要素である。しかし、ブランドとは単純にこれらを足しあわせたら生まれるわけではない。逆に言うと、こうなる。購入決定におけるポイントが、競合製品との機能比較やデザインの比較、コストパフォーマンスの比較であるようでは、それはブランドとなりえていないのだ、と。

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