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  • 2016/04/18 掲載

地方私立大学の「公立化」を巡る賛否両論、本当に地方を救うことになるのか

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定員割れで経営危機に陥った地方の私立大を地元の自治体が公立化する動きが、各地で相次いでいる。2016年度からは京都府福知山市の成美大が福知山公立大と改称して再スタートを切ったほか、山口県山陽小野田市の山口東京理科大も公立大に衣替えした。自治体側が地方創生の拠点となる大学の存続を願ったためで、学費が下がることで志願者が大幅に増えている。しかし、安易な公立化は将来、自治体に重い財政負担を負わせるうえ、大学間の公正な競争を妨げることにもなりかねない。日本私立大学協会の小出秀文常務理事は「公立大の在り方が問われている」と疑問の声を上げている。18歳人口が急減する大学の「2018年問題」を控え、地方の大学はどこへ向かおうとしているのか。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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大学の2018年問題を控えて、大学の学生獲得競争も激しさを増している

福知山公立大は早い時期に定員増を計画

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 福知山公立大は、旧成美大を経営していた学校法人成美学園から土地、建物の寄付を受け、公立大学法人として再出発した。地域経営学部の1学部で、地域経営学科、医療福祉マネジメント学科の2学科を持つ。

 公立化により、受験生らの注目度は大幅にアップした。定員50人に対し、1,638人の受験生が殺到、3日の入学式には新入生58人と編入生1人が顔をそろえた。井口和起学長は「地域社会に根差し、地域の担い手となってほしい」と激励、新入生の門出を祝った。

 成美大は2000年に設置された京都創成大が前身。市は創設当時から27億円を支援していたが、学生の定員割れが続いて経営難が表面化した。理事会で存廃を巡る議論が噴出して混迷を深める一方、2010年度末には文部科学省の認証機関・大学基準協会から不適合判定を受けている。

 このため、市は有識者会議での議論を踏まえ、抜本的な改革をしたうえで公立化することを決断した。人口が8万人を切るなど厳しい状況に直面する中、大学の存続が若者人口を確保するために最も効果があり、地方創生の司令塔役も期待できるからだ。

 公立大学法人の理事長と初代学長には、元京都府立大学長の井口氏を起用した。公立化で国から学生数に応じた運営費交付金を受けられるが、開学当初は収入不足が発生する見込み。そこで、段階的に定員を増やして5年後の黒字化を目指す計画も策定した。

 市大学政策課は「福知山だけでなく、北近畿全体が若者の流出と地域振興に悩んでいる。できるだけ早く1学年の定員を200人まで増やすとともに、教育、研究を充実させて地方創生の旗振り役を務めてほしい」と期待する。

公立化した地方私立大学
大学本部所在地運営自治体設立年公立移行年
高知工科大高知県香美市高知県19972009
静岡文化芸術大静岡県浜松市静岡県20002010
名桜大沖縄県名護市北部広域市町村圏事務組合
(名護市など12市町村)
19942010
公立鳥取環境大鳥取県鳥取市鳥取県、鳥取市20012012
長岡造形大新潟県長岡市長岡市19942014
山口東京理科大山口県山陽小野田市山陽小野田市19952016
福知山公立大京都府福知山市福知山市20002016
出典:各大学ホームページから作成

山口東京理科大は将来、薬学部を新設

 山口東京理科大は学校法人東京理科大から土地、建物の寄付を受け、公立大として再スタートした。当面は工学部のみの単科大となるが、早い段階で山口県内初の薬学部を新設する方針だ。

 1学年の定員は200人。授業料を国立大水準まで引き下げたことから、公立化が受験生の期待を集め、2016年度入学試験には4,149人もの志願者が殺到した。6日の入学式では狭き門を突破した221人の新入生が集まり、決意を新たにしている。

 学校法人東京理科大が1987年に設立した東京理科大山口短期大が前身で、1995年に4年制へ移行した。だが、定員割れが続いて経営危機に直面、累積赤字が約90億円に達したことから、東京理科大が2014年、山陽小野田市へ公立化を持ちかけた。

 市は公立化しても赤字にならないとの試算結果を基に、公立化の受け入れを決めた。しかし、県内では国立の山口大に工学部があるため、単科大のままでは公立化の必要性が弱いと判断、薬学部の新設を打ち出している。

 市の人口は6万3,000人足らず。1985年をピークに減少の一途をたどっている。人口減を食い止め、地方創生を進めていくうえで、幅広い知見を持つ地元大学の存在が欠かせないと考えている。

 市成長戦略室は「大学がなくなれば若者の流出に拍車がかかりかねない。薬学部が誕生すれば進路の選択肢が増え、市の産業力強化や定住促進も期待できる。当面は卒業生の6割程度に県内就職してもらえるよう努めたい」と意気込んでいる。

【次ページ】経営危機に瀕した私立大の頼みの綱

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