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  • 2016/06/01 掲載

トヨタ式はなぜ「最強」なのか? その理由は「時間術」にあった

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今のビジネスではスピードこそが命になっている。グーグルやフェイスブックといった新興急成長企業はもとより、世界最大のメーカーであるGEのイメルトCEOもリーンスタートアップを読んで、FAST WORKSに取り組んでいる。これらの源流にあるのが実は日本人ならよく知る「トヨタ生産方式(TPS:以下、トヨタ式)」だ。たとえば、トヨタ式では「3日」は「72時間」として捉える。これは時間の単位を変えるだけで考え方や行動の仕方が変わるというエピソードだ。トヨタを最強にしたトヨタ式の時間術とは。

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開することで定評がある。主な著書に『世界最高峰CEO 43人の問題解決術』(KADOKAWA)『難局に打ち勝った100人に学ぶ 乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)『大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ』(ビジネス+IT BOOKS)などがある。

大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ (ビジネス+IT BOOKS)
・著者:桑原 晃弥
・定価:800円 (税抜)
・出版社: SBクリエイティブ
・ASIN:B07F62BVH9
・発売日:2018年7月2日


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限られた時間の中で「付加価値を生む時間」をどれだけ増やせるか

トヨタはこうして時間のムダを取る

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 ビジネスとは、限られた仕事時間の中で、「付加価値を生む時間」をどれだけ増やせるかの競い合いです。

 トヨタ式は、付加価値を生まない時間を見過ごすことは、生産性の低下を招くだけでなく、「命の浪費」であると考えます。

 今日、時間ほど貴重な資源はありません。しかし、相手が時間を守らないといらだつ人も、部下やお客さまの時間を浪費することには案外無頓着だったりするものです。時間は相手の命そのもの。それをムダにしないことは何より重要なことなのです。

 もちろん誰しも望んでムダな仕事をしているわけではありません。明らかな「ムダ」はともかく、仕事の中にはムダではあっても、現時点ではすぐにやめることのできないものもたくさん含まれています。

 こうしたムダを省いていくためには、自分がやっていることの一つひとつについて「これは付加価値を生んでいるか?」「これはお客さまのためになっているか?」と問いかけながら常に「もっと良いやり方」を求めて改善していくことが何より大切なのです。

 その際、気を付けなければならないのが「時間は動作の影」という考え方です。時間のムダを少しでも減らそうと、みんなに「急げ」「やればできる」と叱咤することは悪しき精神論です。

 「時間がかかる」というのは、そこに「動作のムダ」があるからです。時間のムダを省くには、時計を見るのではなく、動作をよく見て、動作のムダを改善すればいいのです。動作のムダがなくなれば、時間は自ずと短くなります。これがトヨタ式の「時間は動作の影」という考え方です。

 トヨタ式改善の基本は「真因を突き止めて改善する」ことですが、時間のムダを省くにあたってもその「真因」を知ることが何より大切なのです。

 時間はすべての人に平等に与えられていますが、その使い方は人によってさまざまです。時間の中に占める正味時間の比率をどれだけ高めることができるかは、生産性の向上だけでなく、自分自身の命と相手の命を大切にすることでもあるのです。

トヨタはここで時間を効果的に使う

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トヨタ最強の時間術
 トヨタという会社についてかつてよく言われたのは「決まるまでは長いが、決まってからの実行力はすさまじい」という言い方です。

 たとえば、アメリカでの現地生産に関しても、トヨタがアメリカへの進出を決めたのはホンダ、日産に次ぐ3番目と決して早くはありませんでした。こうしたことが「決まるまでは長い」という評価につながったわけですが、最近のトヨタを見ているとハイブリッドカーの開発にしろ、燃料電池車の開発にしろ「世界に先駆けて」が増えています。

 ただし、そこにあるのは単なる早さではありません。そこに至るまでには長い準備期間を経ていますし、だからこそスタートしてからしっかりと走り続けることができます。「拙速」と「巧遅」のいずれを尊ぶかという問いの解は、「場合による」のかもしれませんが、変化のスピードが速く、拙速がもてはやされがちな時代、トヨタは「沈鬱遅鈍」という考え方によって成果を上げ続けています。

 トヨタは着手することについては、「先見の目つき」「健全な危機感」によって「より早く」を求めますが、実行・実現に関しては「とにかくすぐに」ではなく、むしろ「時間をかける」ことを求めます。

 たとえば、改革や開発にあたっては、決まるまでに目的や手段、リスク、コンセンサス取りなどの検討に多大な時間を費やします。それだけにスタート後の問題は少なく、仮に問題が起きても迅速な対応が可能になるのに対し、事前準備をはしょって慌てて飛び出した企業が問題を前に立ち往生することが少なくありません。その差が信頼と強さを生むのです。

 改善活動においても対処療法を嫌い、時間をかけて真因を調べたうえで、「目的は一つ、手段はいくつもある」という考え方の下、いくつもの改善策を考え、十分な比較検討を経て実行に移ります。そうすることで改善が部分最適ではなく全体最適となり費用対効果も良いものとなるのです。

 時間には「省くべき時間」もあれば、「あえてかけるべき時間」があるのです。その見極めを間違えると早さが失敗につながり、急いだことが信用の失墜を招くこともあるのです。

【次ページ】トヨタはこうして時間をつくり出す

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トップが語る リクルートの心臓、「FP&A」の舞台裏

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