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  • 2010/05/14 掲載

ICTは社会インフラの革新を支える基盤へ、スマート化へのパラダイムシフト--野村総合研究所 桑津浩太郎氏

鉄道、スマートグリッド、都市開発などでICT活用

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日本企業の弱点として「起業家マインドの欠如」がよく指摘される。米国で一定の成功をおさめたベンチャービジネス主導型モデルは、産業育成、国際競争力強化の面では高い評価を得た。その一方で、たとえば社会インフラをはじめとする「大型産業分野には必ずしも適さない」と、ベンチャービジネス主導型モデルの問題点を指摘するのは野村総合研究所(以下、NRI)情報・通信コンサルティング部長 主席コンサルタントの桑津浩太郎氏だ。桑津氏は、日本企業の強み、社会基盤構築においてICTが果たす役割について言及。日本企業はICTを活用して、どのように国際競争力を維持し、企業としての未来像を描けばよいのだろうか。
執筆:丸山 隆平
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革新的技術の登場は長期化。改良型技術に陥っているICT産業

 ICT産業に限らず、日本企業の弱点についてよく言われるのが、起業家マインドの欠如だ。米国では学生に独立志向が強く、優秀な学生ほど大学や大学院を卒業すると企業に所属するのではなく、自分で事業を起こす。そうした独立心旺盛なアントレプレナー精神から、次代を牽引する影響力のあるベンチャー企業が登場する。これに対して日本の学生は大企業志向が強く、安定を求め冒険をしない。この意識の差が社会全体の活性化にマイナスの影響を与えている――というものだ。

 この傾向は、2000年代に入り、日本経済の長期的な低迷でますます強くなっているようだ。米国型のベンチャービジネス主導型モデルによる産業活性化について桑津氏は「事業や技術のハイリスクなテーマの開発を大きな組織から切り離し、柔軟かつ低コストで小企業に委託するもので、基本的な思想は市場原理主義にある」と言う。換言すると、競争と淘汰を繰り返し、勝者への潤沢な報酬をもたらすということだろう。

 しかし、「この仕組みは産業育成、国際競争力強化の面では高い評価を得た反面、問題点も明らかになってきた」という。桑津氏が指摘する問題点は以下の3点である。

  1. ICT分野のなかでも大型産業分野、たとえば社会インフラ関連分野などには必ずしも適していないこと
  2. スタート時点が小規模組織であり、個人、企業向け製品は開発できてもキャリア向けの大規模完成品の提供は困難
  3. 「欲望」と「市場原理」に基づいているためバブルを発生しやすく、循環的にバブルと不況を繰り返すことになる

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図1 シスコのジレンマ(1)
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図2 シスコのジレンマ(2)
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図3 シスコのジレンマ(3)
 桑津氏は(2)の典型的な事例として米シスコシステムズを挙げる。同社は2004年までは自社での研究開発は最小限にとどめ、ベンチャー企業のA&D(Acquisition&Development)を通じて、基礎技術を獲得してきた。スイッチやルーターの新製品導入はこれによりスムーズに機能し、ルーター依存の経営体質からスイッチへの転換を果たし、光伝送製品の品揃え拡大に成功した。

 しかし、ベンチャー企業では、キャリアが望むような高信頼性、高スケーラビリティー製品の開発は困難だ。結果、A&Dの対象となりうる企業が見つからなくなり、2004年以降は自社研究重視へ転換することになった。

 同社のコアビジネスであるネットワーク分野でのA&Dは、ASICやミドルウェアなどの一部の分野にとどまることになった。また、A&Dの対象を各種アプライアンスやCATV-STBなど、従来のコアビジネスから拡大している。事実、シスコでは2005年のProcket Networksの買収以降、コアルータ技術の最終製品を対象としたM&Aは行われていないという。

 この背景として、「昨今のICT産業では革新的でエポックメーキングな技術革新のサイクルが長期化している一方、改良、改善型の技術は短期化しているという事実がある。たとえば、携帯電話では3G以降の改良型の製品開発が先行し、4Gは先送りの状態にある」。

 一方、ベンチャー主導の米国型に対し、EUモデルは加盟国の連携による規模の経済性を追求。米国型のような個人の営利を強く追求するモデルではなく、エネルギーや通信などの社会インフラ領域での取り組みを重視している。EU域内での連携とネットワーク型産業のシナジーを追求し、いわば「グローバル市場の先取り」を試みている状況にあるという。

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