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  • 2013/03/12 掲載

上から目線の戦略で成功するはずもない中堅・中小企業攻略

ノークリサーチ連載:中堅・中小企業市場の解体新書

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ベンダーによる上から下への安直な販売展開。あるいは急な方針転換。これまでやっていた大企業だけでなく、同じやり方で中堅・中小企業にもIT製品、サービスを販売、展開していこうということがその典型例だ。その場合、このITビジネスで誰が恩恵を被ることになるかというと、実はほとんど恩恵を受ける当事者はいないということに気がつく。互いにメリットを享受できないこの不幸な連鎖はなぜ繰り返されるのか。

クラウドでも本質的には変わらない中堅・中小企業への提案

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 上から目線に陥っているベンダーの思い上がりを見直さなければ、結局何も変わらない。ハコモノ的な発想による過去の轍を踏まない努力をするべき時がきているようだ。

 たとえばクラウドだ。クラウドは、中小企業のような情報システム部門に人数を割けなかったり、スキルも総じて低かったり、IT予算も少なかったりする中小企業にとって、格好のツールとして活用されるべきだという考え方がある。

 実際、経済産業省が2008年から2009年度にかけて行われた「中小企業向けSaaS活用基盤整備事業」で構築された中小企業向けSaaS提供サイト「J-SaaS」では、クラウドを用いてITリソースの乏しい多くの中小企業が、安い価格で業務システムをクラウド越しに利用でき、なかなか進まない自計化(税理士や会計士にすべてを委ねずに自社で会計・決算業務を手がけること)を促すという、いわば一石二鳥の構想だった。しかし、それは残念な結果に終わったのは周知の事実である。

 いわゆる上から目線の戦略で苦い経験をしたベンダーも数多い。それにも関わらずこの失敗は繰り返されるのだ。ベンダーだけでなく、IT業界を生業としている関係者にも、中堅・中小企業をひとくくりでみなしている人はいまだに数多い。

 理由のひとつは、単純に中小企業へのITビジネスを知らないため、という解釈。もうひとつが中小企業には余力でもって対応すればよい、というある種の怠慢である。この二つの位相が絡み合っている。

 大手企業を相手に成功しているベンダーが行っている販売、提案は至極当たり前の原理原則である。つまり「ユーザー企業が満足のできる内容の提案を行うこと。それに対する相応の対価をもらうこと」だ。

 ここには「ユーザー企業の満足度」=「相応のIT予算で賄う」という等式が成り立つ。つまりは提案するベンダーは提案に見合う対価をいただく、そして利益が生まれる、即ち儲かる。一方で、ユーザー企業は満足を得られる。これが適切に成り立てば、Win-Winの関係になる(本来は言うまでもないことなのだが、そもそもこの原則がなければ継続的なビジネスは成立するはずがない)。

 ここで先ほどの二つの位相を重ね合わせてみよう。

 ひとつめは、ベンダーが、中小企業はITリテラシーが低く、ユーザー企業はその提案するITの意味も満足にわからないので、適当な提案でも構わない、すなわち中小企業はITの活用によって得られる満足は少なくてよいと考えるとしよう。

 もうひとつの考え方「中小企業には余力でもって対応すればよい」という点は、弊社がコンサルティングとしてベンダーから良く、「大企業で一定の実績のある商品、サービスの機能を落とし、価格を安くすることで中堅・中小企業でも展開したい」という相談を受けることにある。なるほど、それはある意味市場を拡大するためには何かを犠牲にする考え方でロジックは理解できる。

 ただし、いずれも先の等式に当てはめてみれば、どのような結果になるのかは自明の理だろう。

中堅・中小企業には機能よりも価格勝負で大丈夫なのか?

 経験の浅いベンダーの多くは「中小企業なので、大企業で提供する内容よりも価格を安くしよう。機能も限定して、売るほうの手間をかけなくて済むように手離れの良い売り方を心がけよう。販売チャネルは実績のあるディストリビュータや販売店に任せることでなんとかなるだろう」と考える。残念ながら昔も今もこの誤りは一向に正されない。

 この考え方のもっとも大きな問題点は何かといえば、端的に中小企業、ユーザーの視点が欠けているところだ。さらにいえば、ユーザー企業の満足という視点が欠けている。そこにはベンダー側のWinだけが短絡的に盛り込まれているに過ぎない。

 中小企業のITに対する思いとは、本当に「大企業で実績のある立派なシステムを安く、機能を限定されたシステムとして導入する」ことなのだろうか。あるいは手離れの良い商品やサービスでも構わないという性質の考え方が彼らのIT観なのだろうか。

【次ページ】新たなモノ作りの体系で求められるIT活用とは何か?
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