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  • 2013/01/28 掲載

墨田区の「スミファ」に見る中小製造業の新たな挑戦

ノークリサーチ連載:中堅・中小企業市場の解体新書

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中小製造業でメーカーから製造委託を獲得するという従来の商流とは異なる動きが出てきている。「FabLab」「パーソナルファブリケーション」と呼ばれるもので、日本に限らず海外でも注目を集めている。また、新しいもの作りの動きに呼応するかのように、資金調達手段としての「クラウドファンディング」にも注目が集まっている。今回は墨田区の工場見学を中心としたイベント「スミファ」への取材を通じ、中小製造業が持つ新たな可能性とそこでITが果たすべき役割を考えていくことにする。

ノークリサーチ 岩上由高

ノークリサーチ 岩上由高

ノークリサーチ シニアアナリスト 博士(工学)
早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業などでIT製品及びビジネスの企画/開発/マネジメントに携わる。ノークリサーチでは多方面で培った経験を生かし、リサーチ/コンサル/執筆・講演など幅広い分野を担当。著書は「AdobeAIRの基本と実践」「クラウド大全(共著)」(日経BP刊)など。

消費者を巻き込んで広がる新しいモノづくり

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 中小製造業にとって、「自社の持つ技術をどうやって認知してもらうか?」は積年の課題だ。その解決策として、充実した内容を持つホームページを開設して自社をアピールするといった取り組みが現在も進んでいる。その一方で、メーカーから製造委託を獲得するという従来の商流とは異なる動きも出てきている。

 たとえば、合同会社ブランチが推進する「BRANCH」は町工場とデザイナーのマッチングを行うプロジェクトだ。デザイナーが描く粋な生活用品を町工場の優れた技術で製品化して送り出している。

 デザイナーも含めたさまざまな職種の女性が集まったサークル「ものづくり系女子」も興味深い動きだ。自分が欲しいと思うアクセサリを自作するなど、各種プロジェクトを展開している。

 こうした動きは「FabLab」「パーソナルファブリケーション」などのキーワードで表現され、海外でも注目を集めている。レーザーカッターや3Dプリンタといった従来は個人での入手がほぼ不可能だった工作機械が安価になり、それらを自由に利用できる施設や工房が登場してきたことが興隆の背景にある。

 このように中小製造業には大手メーカーを支えるだけでなく、デザイナーや消費者などの「個」に対して開かれたモノづくりの場としての新たな役割が生まれつつある。今回は墨田区の工場見学を中心としたイベント「スミファFacebookページ)」への取材を通じ、中小製造業が持つ新たな可能性とそこでITが果たすべき役割を考えていくことにする。

スカイツリー周辺に点在する町工場が主役のイベント「スミファ」

 墨田区というと今は「東京スカイツリー」を思い浮かべる方が多いだろうが、その周辺には古くから町工場が点在していることでも知られている。「スミファ」は同地域の町工場の活動を広く知ってもらうことを目的に、地場の工場が協力して企画・運営するイベント企画である。その一つである「スミファツアー」では町工場との交流を活性化させる以下のような見学ツアーが用意された。

デザイナー限定ツアー:
デザイナーを対象とした工場見学ツアーである。「工場を見学したいが、なかなかその機会がない」「こんなデザインを実現したいが、それを作ることができる業者が見つからない」といった悩みを抱えるデザイナーは少なくない。実際に工場を見学してもらい、何かの出会いや今後のヒントとなる機会になればという思いから企画されたものだ。

外国人&日本人ツアー:
外国人と日本人との交流を交えながら、工場を見学していくツアーである。「東京スカイツリー」だけでなく、「産業観光」という視点から日本の工場が持つ優れた技術を実際に見てもらうことを意図したものだ。

ものづくりのための空き物件ツアー:
現地を回りながら工場・工房・アトリエに適した空き物件を紹介するツアーである。冒頭で述べたようにモノ作りへの参入障壁は下がりつつある(もちろん精密機械や化学製品など大規模な製造施設が必要な分野も多く、すべてのモノ作りが手軽になったわけではないが、今や電気自動車もガレージで作ることができる時代だ)。町工場が多い同地域は新たにモノ作りにチャレンジしようと考える人にとっては最適な環境と言えるだろう。

 これらのツアーは2012年11月23日~25日までの3日間にわたって開催され、ツアーを含むイベント全体としては延べ3000人超の参加があったという。短期間の地域限定イベントとしては、成功例に属する参加人数といえるだろう。

 こうしたイベントでもITは積極的に活用されている。「さまざまな場面でFacebookを有効に活用しています」と語るのはスミファ実行委員長の三田氏だ。具体的には「スミファ」側からタグ機能を活用して町工場とコンテンツをリンクし、町工場同士の繋がりを通じて認知を広めていった。実際、「スミファ」の認知は東京に限らず、全国都道府県に広がったという。

 また、空き物件ツアーでは物件写真にモノ作りをイメージしたデザイン要素を重ね合わせ、「この写真をシェアしたい」といった気持ちを喚起することに配慮しているそうだ。ツアー開催中には、見学先の町工場で教えてもらえる暗号を集めると、実際の製品(町工場で製造しているもの)をプレゼントするといったゲーム性を取り入れた取り組みも行っている。

【次ページ】新たなモノ作りの体系で求められるIT活用とは何か?

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