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  • 2015/02/17 掲載

スティーブ・ジョブズとナポレオン トップダウンのカリスマの共通点と違い(後編)

連載:名著×少年漫画から学ぶ組織論(25)

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アップル・コンピューター創業者スティーブ・ジョブズ氏とフランス皇帝ナポレオン・ボナパルト。両者はともに、トップダウンの組織を率いたリーダーであるが、その生涯を終えるまで輝きを放ち続けたジョブズ氏と悲しき最期を迎えたナポレオンには、共通する点とそうでない点がある。近代戦争における名将達の戦いで下されたさまざまな決断とその結果が記された名著「名将たちの決断」を紐解き、「カリスマ起業家の晩年における身の処し方」について考えてみたい。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

前編はこちら。
連載一覧

徹底的なトップダウン型組織では
トップの衰えが組織全体の根幹を揺るがすことになる

photo
スティーブ・ジョブズと
ナポレオン・ボナパルト。
新旧トップダウンのカリスマ比較からみえた、共通点と違いとは?

 ナポレオンの終末期を、「凋落するカリスマ起業家」に重ね合わせる理由には、2つのポイントがある。

・徹底的な上意下達、トップダウン型組織(部下・後継者の育成の失敗) ・自軍に対する過信と判断の精度の低下

 これは、「名将たちの決断」において、ワーテルローの戦いにおけるナポレオンの敵軍、ウェリントン卿の視点で描かれる記述が参考になる。

 ひとつ目は、徹底的な上意下達、トップダウン型組織(部下・後継者の育成の失敗)についてである。

ナポレオン麾下のフランス軍は、その当時のヨーロッパ最強の戦力を有していた。オーストリア、ロシア、プロイセンなどが連合しても、常に勝利はナポレオンに帰していたのだ。

ところがそれら一連の戦勝は、ナポレオンの軍事的才能だということに、ウェルズリー中将(編注:後のウェリントン卿)は気づく。手強いと覚悟していたジュノ将軍が、あまりにも戦略的に、戦術的に無能だったからである。

中将はこの地でのフランス軍との戦闘に高い勝率を収めた。フランス軍はパターンで戦いを展開するので、それを読み切ってしまえば勝てることに気づいた。

(中略)

ウェルズリー中将は、ナポレオン自身がスペインに在るときには、強いて戦わずにやりすごす。そしてナポレオンがこの地を去ると、俄然攻勢を加えたのだ。

(『名将たちの決断』 1.ウェリントン卿 より)

 ウェリントン卿は、ナポレオン率いるフランス軍との戦いで、ただひとり数々の勝利を収めたことで「反ナポレオン」の象徴となった名将である。

 どうして彼がナポレオンに勝てたのか、それはフランス軍の将軍たちの全てが有能なわけではない、ということに気づいたからだったのだ。天才的軍人はナポレオンただひとり。その部下の多くは凡庸なるマネージャーであり、せいぜいナポレオンの指示に従うのが精一杯であった。2章で取り上げられているネイ元帥こそ、名将の誉れ高いとはいえ、これは例外であり、人材不足には常に悩んでいたということだ。

 戦略的な天才性とは、すなわち「臨機応変」ということである。だがしかし、真の意味での臨機応変を発揮できるのはナポレオンだけだった。彼がいない戦場は、あくまで遠方からの指示を頼りにした作戦展開がなされた。そこには必ずパターンがあらわれる。これを衝いてしまえば、個々の戦いでの勝利はそんなに困難なことではなかった。

 これは、冷静に敵軍の内情を看破したウェリントン卿がお見事だった、という以外にないわけだが、もっとも示唆的なのは、強烈なカリスマによって急激に組織を成長させる際に、それを支えるマネージャーが、トップよりも有能足りえず、それが最大の弱点となってしまったということだ。

 現代の企業経営においても、全く同じことが言える事例が数えきれないほど実在する、ということは言うまでもない。

【次ページ】勝てる要因を作るのは敵方である

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