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  • 2014/09/02 掲載

BYODが中堅・中小企業で普及しない3つの理由

ノークリサーチ連載:中堅・中小企業市場の解体新書

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スマートフォンやタブレットといったスマートデバイスの活用は、大企業のみならず中堅・中小企業でも高い注目を集めている。その一方で、ビジネスパーソンが個人でスマートデバイスを購入し、電車の中でニュースに目を通す光景も当たり前になってきた。そこで、「社員が個人として所有している端末を企業の業務にも活かせないか」という発想が生まれてきた。これが「BYOD(Bring Your Own Device:私物端末の持ち込み)」と呼ばれる取り組みである。だが、中堅・中小企業においてBYODを実践しようとする割合は2割程度に留まっている。今回はその理由を探っていくことにする。

ノークリサーチ 岩上由高

ノークリサーチ 岩上由高

ノークリサーチ シニアアナリスト 博士(工学)
早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業などでIT製品及びビジネスの企画/開発/マネジメントに携わる。ノークリサーチでは多方面で培った経験を生かし、リサーチ/コンサル/執筆・講演など幅広い分野を担当。著書は「AdobeAIRの基本と実践」「クラウド大全(共著)」(日経BP刊)など。

BYODに取り組む中堅・中小企業の割合は2割程度に留まる

 まずは以下のグラフをご覧いただきたい。これは業務システムとの連携を伴ったスマートデバイス活用を既に行っているまたは今後行う予定がある年商100億円未満の中堅・中小企業を対象に「スマートデバイス活用における端末調達手段」を尋ねた結果である。

photo
導入済み/導入予定のスマートデバイス活用における端末調達手段(いくつでも)

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 グラフ中の選択肢のうち、「個人所有端末であり、社内で正式に承認されている」と「個人所有端末だが、社内で正式に承認されていない」の2つが「BYOD」に該当するケースだ。設問が複数回答形式(複数の調達手段を併用している場合も考えられるので)であることを踏まえても、BYODを既に実践しているまたはこれから実践しようとしている割合は2割程度に留っていることがわかる。

 この結果を見て、中堅・中小企業ではスマートデバイスを業務に活用する割合そのものが低いのではないか?という見解を持たれる方も少なくないかもしれない。

 だが冒頭にも記載したように、この調査は「業務システムとの連携を伴うスマートデバイス活用を既に行っている、または今後行う予定がある年商100億円未満の中堅・中小企業」を対象としたものだ。つまり、「スマートフォンを使いこなすスキルがない」「タブレットを購入してはみたものの、カバンの中にしまわれたままになっている」などといった企業は除外されている。この結果は「スマートデバイス活用に関して、比較的先進的な年商100億円未満の中堅・中小企業におけるBYODへの取り組み」を示しているわけだ。

 中堅・中小企業ではIT予算も限られる。そのため個人が所有する端末を積極的に活用し、端末調達の費用を抑えるという選択も十分考えられる。

 にも関わらず、BYODへの取り組みが広がりを見せない理由は何だろうか?さらに詳しく調査をすると、大きく3つの理由が浮かび上がってくる。それぞれの理由を詳しく見ていくことにしよう。

 以下にて掲載するグラフはいずれも「業務システムとの連携を伴うスマートデバイス活用を既に行っているまたは今後行う予定がある年商100億円未満の中堅・中小企業」を対象とした調査結果である。

理由1:端末管理に要する手間と費用

 以下のグラフは「スマートデバイス活用における端末調達手段の選択理由」を尋ねた結果を調達手段別に集計したものだ。

画像
導入済み/導入予定のスマートデバイス活用における端末調達手段の選択理由
(いくつでも)

 この結果を見ると、「端末調達の費用負担を抑えたいから」という選択肢の回答割合は個人所有端末を活用する企業では低く、逆に自社で端末を調達する企業では高くなっている。

 つまり、中堅・中小企業は個人所有端末を利用することによる費用削減効果をあまり期待していないことになる。その最も大きな理由は「形状やOSが多岐に渡ることによる管理/運用の手間と費用」」である。

 個人所有端末は形状やOSが多岐に渡り、それらを統一的に管理するためには「モバイルデバイスマネジメント(MDM)」など新たな管理/運用ツールの導入/活用が必要となる。

 社員数が多い大企業であれば「様々な形状やOSをサポートする負担」よりも「社員数分の端末購入を回避できるメリット」の方が大きいケースも十分に考えられる。

 しかし、社員数が少ない中堅・中小企業では前者の負担の方が大きくなってしまいがちだ。その結果、形状やOSを統一しやすい「自社による調達」を選ぶ割合が高くなる。これを裏付けるように、「管理/運用の負担を軽減したいから」という選択肢の回答割合は個人所有端末を活用する場合よりも自社で端末を調達する企業において高くなっている。

 このように「端末の管理/運用を考えると、自社で調達した方がコスト面においても有利」であることが中堅・中小企業においてBYODが普及しづらい第1の理由だ。

 ただし、ここで注意すべき点がある。「個人所有端末だが、社内で正式に承認されていない」という企業が個人所有端末を活用する理由として「管理/運用の負担を軽減したいから」を挙げる割合が3割に達するという結果だ。個人所有端末を活用する企業のサンプル件数が少ない点に留意する必要があるが、重要なポイントなので触れておきたい。

 そもそも社内で正式に承認されていないため、この結果は「端末の管理/運用を安価に実施できている」という企業の割合が3割なのではなく、「端末の管理/運用を個人任せにしている」という状態が3割に達していると捉えるべきだろう。

 「スケジューラを見るくらいなら、個人所有端末を管理/運用する必要はないのでは?」と思われるかも知れない。だが、スケジューラの備考欄などに訪問先の個人名や電話番号を記載するといった使い方は意外と多い。端末を紛失した場合は個人情報漏えいにつながる恐れもある。

 「どこまで管理/運用するか?」の判断は個々の企業におけるスマートデバイスの活用状況によって異なるが、少なくとも「社内で承認されていない個人所有端末の利用」は放置しないようにすることが大切だ。

【次ページ】BYODが中堅・中小企業で普及しない理由2、理由3は何か?

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