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- 2014/01/24 掲載
なぜアップルのジョブズは、新しいオフィスで「トイレの位置」にこだわったのか
1937年宮城県生まれ。トヨタ自動車工業に入社後、生産、原価、購買、業務の各部門で、大野耐一氏のもと「トヨタ生産方式」の実践、改善、普及に努める。その後、農業機械メーカーや住宅メーカー、建設会社、電機関連などでもトヨタ式の導入と実践にあたった。91年韓国大字自動車特別顧問。92年カルマン株式会社設立。現在同社社長。中国西安交通大学客員教授。
著書に『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』『トヨタ流「改善力」の鍛え方』(以上、成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』 『トヨタの上司は現場で何を伝えているのか』『トヨタの社員は机で仕事をしない』『なぜトヨタは逆風を乗り越えられるのか』(以上、PHP新書)、『トヨタ式「改善」の進め方』『トヨタ式「スピード問題解決」』 『「価格半減」のモノづくり術』(以上、PHPビジネス新書)、『トヨタ流最強社員の仕事術』(PHP文庫)、『先進企業の「原価力」』(PHPエディターズ・グループ)、『トヨタ式ならこう解決する!』(東洋経済新報社)、『トヨタ流「視える化」成功ノート』(大和出版)、『トヨタ式改善力』(ダイヤモンド社)などがある。
「離れ小島をつくらない」ことと「三人寄れば文殊の知恵」を信じること
数年前、メーカーA社の依頼で工場を訪ねたところ、あまりに長すぎる生産ラインに驚いたことがある。同社の工場はやたら広く、生産ラインが長いばかりか二階にまで生産ラインが延びていた。そんな広い工場の中に機械がポツンポツンと置かれ、そして人もポツンポツンと配置されていた。まさにトヨタ式で言う「離れ小島」状態だった。
工場で「離れ小島」になるとどんな問題が起きるか。人が離れていると、会話もなくなるし、仮に問題が起きたとしても手伝うこともなければ、駆けつけることもなくなってしまう。ましてや二階のラインと一階のラインの交流はほとんどなかった。理由は「階段の上り下りが面倒」だからだ。
結果、何か問題が起きたとしても内線電話を使って話をするだけで、人が行って何かをするとか、「どうすればいいか」について知恵を出し合うことはまるでなかった。同社の不振はこの長すぎる生産ラインにあった。
トヨタ式改善を進めるうえでの鉄則の一つは「離れ小島をつくらない」だ。お互いが近くにいれば、たとえば誰かの作業に遅れが出れば誰かが手伝うこともできるし、問題が起きればみんなが駆けつけて改善の知恵を出すこともできる。そのためには物理的な距離の近さは絶対条件となる。
A社の生産改革は機械などを可能な限り集めて生産ラインを短くすることからスタートした。機械の距離、人の距離を近づければお互いに助け合うこともできる。そうすることでムダを一つ二つと省いていけば生産効率も上がるし、結果的にコストを大幅に下げることもできる。
さらに試みたのが改善活動を小さなチームで進めることだった。改善提案というのは企業によっては1人ですべてを考えることを原則にしているが、トヨタ式では「三人寄れば文殊の知恵」を大切にしている。人はさまざまで、問題に気づくことは得意だが、技術的にどうすればいいかを考えるのが苦手な人もいる。あるいは、「こうすれば解決できる」というアイデアを考えるのは得意だが、技術力に乏しい人もいる。
だとすれば、問題に気づく人、アイデアを考える人、実際にものをつくる人それぞれが協力して改善案をつくればいいというのがトヨタ式の考え方だ。
もちろん1人で全部やっても構わないし、もっと大勢でやってもかまわないが、大切なのはみんながそれぞれの知恵やアイデア、技術を出し合ってみんなで改善を行うという姿勢だ。
A社の場合、その後、生産ラインが短くなり、社員同士の距離も縮まったこともあり、みんなで改善案を考えるというやり方にスムーズに移行することができた。それ以前、同社の改善案は月に数件と数えるほどだったが、「三人寄れば文殊の知恵」作戦を導入して以降、飛躍的に提案件数が伸び始め、やがて月に1000件を超えるようになった。
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