トヨタのV字回復を支えたトヨタ式
日本の産業界を牽引してきたトヨタが再び勢いを取り戻してきている。2008年のリーマンショックと大規模リコールによってさすがのトヨタも赤字へと転落したが、その後の改革が実を結び13年3月期決算では1兆円を超える利益を計上し、自動車メーカーとして世界初となる生産台数1千万台も視野に入っている。
こうしたV字回復を支えたのが戦後一貫して続けてきたトヨタ式である。危機に陥った直後、トヨタのある幹部がこんな言葉を口にしていた。
「われわれには帰るべき場所がある。」
企業が危機に陥った時、頼るべきは創業の原点である。トヨタにとってそれはトヨタ式であり、トヨタ式を愚直に徹底して実践することで危機を脱し、再び強さを取り戻したいというのがトヨタの意思だった。
そしてその言葉通りにトヨタは復活したわけだが、一方で電機業界をはじめとする日本のメーカーの多くは円安のお陰で一時的な回復を見せてはいるものの、日本のモノづくりを巡る環境自体は一向に改善の兆しが見られない。それどころか日本からモノづくりの場が失われ、雇用の場が失われつつあるというのが実情ではないだろうか。
こうした現状を打開するためには何が必要か。今こそV字回復を遂げたトヨタに学び、トヨタ式に学ぶ必要があると考えるが、今日でもトヨタ式を「自動車をつくるためのもの」と考える人たちからは「所詮はメーカーのためのものであり、それ以外には参考にならない」といった声が聞かれるのは残念でならない。海外に目を向ければ、トヨタ式に学び大成功をおさめた企業は案外と多い。
トヨタ式に学んだIT業界の巨人たち
たとえばデル・コンピュータの創業者マイケル・デルは26歳の頃、トヨタ式を学ぶためにたくさんの本を読んだだけでなく、トヨタ式を実践していた船井電機の工場を訪ね、数時間にわたって話を聞き、デルを世界一に押し上げた確定受注生産の参考にしている。
アップルの創業者スティーブ・ジョブズも「僕は日本でカンバン方式(かつて「トヨタ式」をこう呼ぶ人もいた)の工場をたくさん見学したし、マックでもネクストでもそういう工場をつくった」と言っているように早くからトヨタ式に強い関心を持っていた。現CEOのティム・クックをスカウトした理由にも同氏がコンパック(現ヒューレット・パッカード)でトヨタ式の調達とサプライチェーンのマネージャーを務めていたことを理由に挙げているほどだ。
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