「変えていいもの」と「変えてはいけないもの」を見極める
今日のように変化の激しい時代には何よりも「変える」とか「変わる」ことが重視されるが、その際、最も気をつけなければならないのは企業でも個人でも「変えていいもの」と「変えてはいけないもの」をしっかりと見極めるということだ。この見極めを誤ると、せっかくの「変える」が大切な「強み」を失う原因となってしまう。
スティーブ・ジョブズが創業したアップルはアップルⅡ、そしてマッキントッシュによってコンピュータ業界の寵児となったものの、1985年にCEOのジョン・スカリーがジョブズをアップルから追放して以降、徐々に輝きを失ってしまった。
やがてアップルについて囁かれる噂は「身売り」や「倒産」といったネガティブな情報ばかりになり、ジョブズが特任顧問としてアップルに復帰した1996年頃には、かつてのライバルだったデル・コンピュータのCEOマイケル・デルから「俺なら会社を畳んで株主にお金を返すね」と言われるほどの惨状だった。
その後、倒産寸前のアップルの暫定CEOとなったジョブズは短期間のうちにiMacやiPodといった世界的大ヒット製品をつくり上げ、アップルを復活させたばかりか、IT業界ナンバーワン企業へと押し上げることとなるが、これほどの可能性を持っていたアップルが危機に陥った理由をのちにこう話している。
「問題は、急速な成長ではなく、価値観の変化だったんだ」
ジョブズが去った後のアップルはマッキントッシュのお陰もあり、数年は売上げ、利益とも絶好調だったが、ジョブズによると、この時期にアップルの生命線とも言える「すぐれた製品の開発」を忘れ、「多額の利益」を優先したことが間違いの原因だったという。
アップルが世界中のユーザーに愛されたのは圧倒的に優れた製品をつくったからだ。にもかかわらず、スカリーは製品づくりよりも売上げや利益を優先することでアップルの一番大切なものを失ったことが、その後の凋落につながることとなった。
イノベーションが得意なジョブズが頑なに守り続けていたもの
「製品」か「利益」か。違いはごくわずかに思えても、どちらを優先するかで人の採用も、昇進の仕方も、そして資源の使い方も変わってくる。アップルがアップルであるためには何よりも「製品づくり」こそを第一に考えるべきで、それを忘れた企業運営をすればアップルはアップルらしさを失い、どこにでもあるパソコンメーカーになってしまう。
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