状況の良い時に問題を処理しておかなければ、いずれ目の前で爆発する
「変化に手を貸そうとする者はいない」は、GE(ゼネラル・エレクトリック)で「伝説の経営者」と呼ばれるジャック・ウェルチの言葉である。1981年、ウェルチが45歳でGEのCEOに就任した時、同社は売上高272億ドル、純利益16億ドルの堂々たる企業であり、株式時価総額も全米第11位に位置していた。
もしウェルチが並みの経営者であれば余計なことはせず、今ある事業を無難に伸ばすことを考えたはずだが、ウェルチは「ナンバーワン、ナンバーツー戦略」を掲げ、それ以外の事業に関しては「再建か閉鎖か、さもなければ売却」という選択を迫ったことで知られている。最終的に、117の事業と製品部門を手放し、10万人もの社員を切り捨てた。
一方で160億ドルもの資金を投じて企業買収を進め、GEを「最強企業」へと育て上げることになる。しかし、その過程では「ニュートロン・ジャック」(人間は消し去るが建物は残す中性子爆弾にたとえたもの)という有難くない呼び名もつけられている。それほどにウェルチの改革は凄まじかったということだが、ウェルチ自身はこう言って自らの改革を正当化した。
「状況の良い時に問題を処理しておかなければ、いずれはそれらが自分たちの目の前で爆発するはめになる。そうなるとどうしても残忍で冷酷にならざるを得ない」
1980年代にダウンサイズを進めたお陰でGEはさらなる成長を遂げることができたが、80年代に終身雇用を大々的に謳って改革を先送りしたIBMは90年代に入り、実に15万人もの社員をリストラすることになった。それを見てウェルチはこんな感想を口にした。
「我々の場合、こんなことはもう10年前に終わっている」
ビジネスに変革は欠くことのできない要素だが、できるなら「変化せざるを得なくなる前に変化した方がいい」がウェルチの金言である。
贅肉だけを落とせば楽になるところで筋肉まで削り取ってしまう
トヨタ式でも、「改善は景気のいい時にやれ」という考えだ。
景気がいい時というのは何もしなくても儲かるだけに、つい改善の手を緩めがちになるが、では景気が悪化した時に何ができるかというと、どうしても人を辞めさせるとか、工場を閉鎖するといったリストラしか策がなくなってしまう。
これでは贅肉を落とせば楽になるといったところで、もう落とすべき贅肉もなくなって、必要な筋肉まで削り取らざるをえなくなる。これは本当の意味の減量経営とは言えない。
本来の改善は景気のいい時、業績のいい時にやるもので、好況をいかにうまく切り抜けるかで、不況への備えもできることになる。
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