• 2013/11/20 掲載

トヨタ式「5S」とは何か、なぜ整理・整頓をして業績が伸びるのか

連載:トヨタに学ぶビジネス「改善」の極意

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トヨタ式改善の導入を考えるうえで、企業や組織が最初に取り組むべきはトヨタ式「5S」だ。5Sとは、整理、整頓、清掃、清潔、躾のことを言う。たいていの人は「まず5Sから」と言うと、「何を今さら。もっと儲かる方法を」と反論したくなるところだろうが、前回も取り上げたようにトヨタ式5Sの中にはトヨタ式の考え方の基礎・基本のほとんどが入っていると言っても過言ではない。はたしてあなたの職場では、5Sはどの程度徹底されているだろうか?

カルマン 代表取締役社長 若松 義人

カルマン 代表取締役社長 若松 義人

1937年宮城県生まれ。トヨタ自動車工業に入社後、生産、原価、購買、業務の各部門で、大野耐一氏のもと「トヨタ生産方式」の実践、改善、普及に努める。その後、農業機械メーカーや住宅メーカー、建設会社、電機関連などでもトヨタ式の導入と実践にあたった。91年韓国大字自動車特別顧問。92年カルマン株式会社設立。現在同社社長。中国西安交通大学客員教授。
著書に『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』『トヨタ流「改善力」の鍛え方』(以上、成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』 『トヨタの上司は現場で何を伝えているのか』『トヨタの社員は机で仕事をしない』『なぜトヨタは逆風を乗り越えられるのか』(以上、PHP新書)、『トヨタ式「改善」の進め方』『トヨタ式「スピード問題解決」』 『「価格半減」のモノづくり術』(以上、PHPビジネス新書)、『トヨタ流最強社員の仕事術』(PHP文庫)、『先進企業の「原価力」』(PHPエディターズ・グループ)、『トヨタ式ならこう解決する!』(東洋経済新報社)、『トヨタ流「視える化」成功ノート』(大和出版)、『トヨタ式改善力』(ダイヤモンド社)などがある。

「ものを探す」は仕事ではなくムダである

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 仕事の最中に必要な資料がどこにあるか分からなくなり、「この前見たはずだけど、どこにいった?」と探し回り、結局は見つからず、「困る。なぜ見つからないんだ?」とグチった経験はないだろうか?

 工場に限らず、机の中、パソコンの中の探し物は案外と多いものだ。実際、仕事の中に占める「ものを探す」時間は意外なほど多い。多くの人にとって、探すことは仕事の一部であるようだが、「探す」を「ムダ」と考えている人は少ない。

 だが、トヨタ式において「ものを探すこと」は仕事ではなく、ただの「ムダ」である。

 ある企業の経営者がトヨタの工場を見学して驚いたのは、「トヨタにはものを探している人がいない」ことだった。自社に帰ってみると、工場の外には部材が山と積まれ、その中から「あれはどこだ?」と探しては運び、汚れを拭き取っている社員の姿があった。それでも必要なものがすぐに揃えばまだいいが、現実にはたくさんの在庫の中に「必要なものはなく、あるのはいらないものばかり」がたびたびだった。

 従来は「これも仕事」と考えていたが、トヨタの工場を見て以来、経営者の考え方は大きく変わり、「ムダを省くためには、まずものを探さなくてもいい職場をつくる」として改革をスタートさせることとなった。

 トヨタ式改善を進めるためにはまず「ムダとは何か」を全社でしっかり認識することが必要になる。「ものを探す」ことは、付加価値を生まない、原価だけを高める行為である。こうした職場にあるたくさんのムダをどうすれば省くことができるかを考えることが改善のスタートとなる。

「何がどこにいくつあるか」が新人でも分かるほどの整理・整頓を

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 「ものを探す」に代表されるムダを省くためには、「5S」の徹底が必要になる。特に重要なのが整理と整頓である。トヨタ式の基礎を築いた大野耐一氏の有名な言葉がある。

「いらないものを処分することが整理であり、ほしいものがいつでも取り出せることを整頓という。ただきちんと並べるだけなのは整列であって、現場の管理は整理・整頓でなければならない。」

 簡単なことのようだが、実行は案外と難しい。職場でしばしば「整理・整頓をした」と言い、見た目はきれいになっているのだが、「あの品物がいる」というとき、「あれをどかして、これをどかして」と手間と時間をかけないと持ってこられない光景を目にする。

 トヨタ式の整理・整頓とは見た目の美しさ以上に、「何がどこにいくつあるか」が誰にでもすぐに分かり、必要なものが誰にでも取り出せ、「探す」「動かす」「運ぶ」といった「ムダ」を省いた状態を指している。

 整理と整頓によって職場がきれいになったなら、次に取り組むのが「きれいを維持する」清掃となる。あるメーカーは、わずかの埃さえ嫌うデジタル製品を扱うために、徹底した清掃に取り組んだ。

 床や壁をA2サイズに区切り、役員から管理職、社員が総出で徹底的に磨き上げた。そうやって工場をそれこそピカピカに磨き上げたうえで、毎日、就業時間中に15分間ラインを止めて、生産現場、間接部門の人間が全員、ほうきやモップ、雑巾を手に清掃に取り掛かるようにした。

 生産性の点からは、清掃は業者に任せ、その間もラインを動かすほうが効率的だろう。だが、「職場の環境は自分たちで守る」という「全員参画」の意識を社員全員に持たせるために、何年も続けている。「安全」と「衛生」はすべてに優先する。社員全員にこうした意識を徹底し、ゴミ一つ落ちていない、埃一つない職場環境が風土になるまでやり続けるのがトヨタ式5Sの考え方だ。

「ゴミを拾う、汚れを拭く」から「真因を潰す改善」へ

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 これだけでもかなりのレベルだが、トヨタ式5Sにはその先がある。目指すのは「汚したくても汚れない職場づくり」だ。そのためにはゴミや汚れの「真因」を調べて、徹底した改善を行う必要がある。

 ゴミが落ちていたら拾う。汚れに気づいたら拭き取る。しかし、これだけでは本当の原因を潰したことにはならない。たとえばある工程で塗料の付着が目立つとすれば、機械の改善を行うことで汚れを少しでも減らす努力をする。あるいは、ゴミや汚れの原因が部品などを購入した際の過剰包装にあるとすれば、協力会社と知恵を出し合って可能な限り簡素化をしていくことが必要だ。

 あるメーカーが「ゴミゼロ」に挑戦した際、社内での徹底した分別やリサイクルへの取り組みと並行して進めたのがゴミの元を辿ることだった。過剰包装などに原因があるということは「ゴミをお金を出して買っている」ことになる。そこで、1社1社、1点1点改善を重ねることで実現したのがゴミゼロだったが、こうした改善を積み重ねた先にあるのが「汚したくても汚れない」職場である。

 トヨタ式5Sで大切なのは整理と整頓を終え、職場がきれいになったからとそこで手を緩めないことだ。「きれい」を維持することも大切だが、もっと大切なのは「きれいであり続ける」ために汚れやゴミ、散らかるといったことの一つひとつについて「なぜ」を何度も繰り返して「真因」を調べ、改善を行うことだ。

 トヨタ式改善では問題があればラインを止めるが、その先にあるのは「止めたくても止まらない」ほどのラインをつくり上げることである。同様に5Sも「汚したくても汚れない」ほどの改善をして初めて「5Sをやっています」と胸を張ることができるのである。

 トヨタ式改善を導入するためにはまず5Sのような基礎基本の徹底が欠かせない。5Sの徹底だけでも原価低減などかなりの効果が期待できるが、基礎基本を通してトヨタ式改善の基本的な考え方を身に付けることができればその先へと進むのはうんと楽になる。
(執筆協力:桑原 晃弥)

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