整理と整頓によって職場がきれいになったなら、次に取り組むのが「きれいを維持する」清掃となる。あるメーカーは、わずかの埃さえ嫌うデジタル製品を扱うために、徹底した清掃に取り組んだ。
床や壁をA2サイズに区切り、役員から管理職、社員が総出で徹底的に磨き上げた。そうやって工場をそれこそピカピカに磨き上げたうえで、毎日、就業時間中に15分間ラインを止めて、生産現場、間接部門の人間が全員、ほうきやモップ、雑巾を手に清掃に取り掛かるようにした。
生産性の点からは、清掃は業者に任せ、その間もラインを動かすほうが効率的だろう。だが、「職場の環境は自分たちで守る」という「全員参画」の意識を社員全員に持たせるために、何年も続けている。「安全」と「衛生」はすべてに優先する。社員全員にこうした意識を徹底し、ゴミ一つ落ちていない、埃一つない職場環境が風土になるまでやり続けるのがトヨタ式5Sの考え方だ。
「ゴミを拾う、汚れを拭く」から「真因を潰す改善」へ
これだけでもかなりのレベルだが、トヨタ式5Sにはその先がある。目指すのは「汚したくても汚れない職場づくり」だ。そのためにはゴミや汚れの「真因」を調べて、徹底した改善を行う必要がある。
ゴミが落ちていたら拾う。汚れに気づいたら拭き取る。しかし、これだけでは本当の原因を潰したことにはならない。たとえばある工程で塗料の付着が目立つとすれば、機械の改善を行うことで汚れを少しでも減らす努力をする。あるいは、ゴミや汚れの原因が部品などを購入した際の過剰包装にあるとすれば、協力会社と知恵を出し合って可能な限り簡素化をしていくことが必要だ。
あるメーカーが「ゴミゼロ」に挑戦した際、社内での徹底した分別やリサイクルへの取り組みと並行して進めたのがゴミの元を辿ることだった。過剰包装などに原因があるということは「ゴミをお金を出して買っている」ことになる。そこで、1社1社、1点1点改善を重ねることで実現したのがゴミゼロだったが、こうした改善を積み重ねた先にあるのが「汚したくても汚れない」職場である。
トヨタ式5Sで大切なのは整理と整頓を終え、職場がきれいになったからとそこで手を緩めないことだ。「きれい」を維持することも大切だが、もっと大切なのは「きれいであり続ける」ために汚れやゴミ、散らかるといったことの一つひとつについて「なぜ」を何度も繰り返して「真因」を調べ、改善を行うことだ。
トヨタ式改善では問題があればラインを止めるが、その先にあるのは「止めたくても止まらない」ほどのラインをつくり上げることである。同様に5Sも「汚したくても汚れない」ほどの改善をして初めて「5Sをやっています」と胸を張ることができるのである。
トヨタ式改善を導入するためにはまず5Sのような基礎基本の徹底が欠かせない。5Sの徹底だけでも原価低減などかなりの効果が期待できるが、基礎基本を通してトヨタ式改善の基本的な考え方を身に付けることができればその先へと進むのはうんと楽になる。