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  • 2016/06/28 掲載

「ロボット・ブーム」か「ロボットビジネス・ブーム」か、それが問題だ

森山和道の「ロボット」基礎講座

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いまロボットが再び盛り上がっている。どんどん知能化・高度化が進んでいる自動機械の世界に、漠然と興味があるビジネスマンは多いと思う。だがロボットという言葉は漠然としていて、参入するにしても、今のブームをどう捉えればいいのかさえも、わかりにくいかもしれない。この連載では、今のロボットブーム全体の状況を大づかみして理解するための足がかり、枠組みを提供することをねらいとする。参入前に全体の風景を思い描き、自分たちをどこに位置付けるか考えるための参考にしていただければ幸いである。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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「ロボットブーム」はどう捉えるべきか


産業用ロボット 生産設備の一部のロボット

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 ロボットと聞いて、パッと頭に浮かぶのはどんなものだろうか? 想像してほしい。

 自社で工場を運用している人ならば、産業用ロボットを想像するだろう。工場内で生産設備、生産システムの一部として活躍するロボット、工業用機械としてのロボットである。ロボットは普通の機械と違って、動作をプログラミングすることで、ややフレキシブルな働きをすることができる。

川崎重工のスポット溶接ロボット(2013国際ロボット展)


 日本が「ロボット大国」と言われるのは、産業用ロボットの稼働台数、そして出荷台数がともに世界一だからだ。およそ30万台、世界全体の1/4のロボットが日本で使われている。

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世界の産業用ロボット稼働台数

 だが中国は2013年にロボット需要(購入額)で世界一になった。いつまでも「日本が世界一です」とは言えなくなりつつある。背景にあるのは各業界でおなじみの、新興国での人件費高騰、そして製品品質の上昇である。どの業界でも起きている業界構造の変化が、産業用ロボットの業界にも及んでいる。

 世の中も変化している。日本における生産年齢人口の変化、いわゆる人手不足だ。数々の変化に対して、1970年代以降、自動車業界とともに歩んできた産業用ロボットは、多品種変量生産の3品産業(食品・医薬品・化粧品)へ活用の場や、活用スタイルを広げようとしている。技術的にも、最近のロボットはカメラや力センサと組み合わせることで、以前よりもできることが増えている。

カワダロボティクスの「NEXTAGE」(2013国際ロボット展 THKインテックスブース)


 社会・技術両面における変化、それに伴う新たな動き。それが2014年の日本政府による「日本再興戦略」での「ロボットによる新たな産業革命」や「ロボット革命実現会議」の開催、そして「ロボット新戦略」のとりまとめ、それを受けて実施されている経済産業省による「ロボット導入実証事業」とも関連してくる。詳細は機会があればおいおい紹介していきたい。待てない人は検索するといい。

異業種混在のサービスロボット

 いや、産業用ロボットが活躍しているのは知ってるけど、あれは機械でしょ、いま注目されている「ロボット」っていうのは一般家庭や公共の場で活動するロボットでしょう、という人もいる。「ロボット」という存在そのものに夢を感じ、新規参入したい人たちが興味を持っているのは、この領域かもしれない。

 非製造業分野で活躍するロボットは、一般に「サービスロボット」と呼ばれてひとまとめにされている。工場のなかで動くのではなく、人とより近い距離で、人に対して何らかのサービスを行うロボットである。

Simbe Roboticsの「Tally」。棚をチェックする移動ロボット


 サービスと言われても実にさまざまだ。たとえば期待は高い「介護ロボット」も一般にここに分類されている。インフラ老朽化が話題になるにつれ、メンテナンスロボットなどもニュースになることが多くなった。また、やっていることは大したことがなくても「ロボットで行う」こと自体が価値を持つ場合もある。江戸時代のからくり「お茶運び人形」のようなものだ。

 利用状況も利用者もずいぶん違うものが全部まとめてサービスロボットと呼ばれてしまっているのが現状だ。そう呼ばれてしまっているので仕方ないのだが、市場参入に興味があるのであれば、自分が興味関心があるのがどこなのかは焦点を絞る必要がある。

パナソニック「自立支援型起立歩行アシストロボット」 国際福祉機器展2014


 この市場が本格的に注目されはじめたのは前回のロボットブームのときからだ。その一端は間違いなく1996年末のホンダによる二足歩行ロボット「P2」発表にあった。ホンダがロボット、しかもヒューマノイドを作っていたということは、広く一般にまで驚きをもたらし、その驚きが世の中を動かした。

Hondaのヒューマノイド「P2」。1996年末に発表された


 ソフトバンクのPepperは発表されて2年が経ち、日本全国、津々浦々で見られるようになった。Pepperは、腕はついているが、せいぜいポケットティッシュくらいしか持てない。騒がしいところに置かれていることも多く現実には音声認識もなかなか難しい。物理的な仕事はできない。だが都市部だけでなく、地方都市でまで多くの人々に実際のロボットを見せ、触らせた功績は大きい。ロボットに触れたのは初めてだという人も多かったはずだ。安全面でも耐久性の面でも、それだけのロボットを作るのは簡単ではない。

 いまでも展示会に行くと、ユニフォームなどを着せられているPepperの姿を各企業のブースでよく見かける。だが最近はあきられたのか、その姿を写真におさめる人の姿もあまり見なくなった。客寄せパンダはあちこちにいたら希少価値が薄れる。ソフトバンクは大量のPepperを市場に投入することで、クラウドでロボットを賢くしていくというコンセプトを当初発表していたが、今後、その真価が問われることになる。

ソフトバンク「Pepper」


 いっぽう、まだまだ続々と他のプレイヤーたちからもコミュニケーション・ロボットが市場に投入されようとしている。背景にはいわゆる「メイカー・ムーブメント」やハードウェア・スタートアップのブームがあり、ファンドや企業からの投資も続いている。この動きもしばらくは続くと思われる。とにかく色々なプレイヤーが混在しているので、この領域はもう少し細かく見ていく必要がある。

MITメディアラボ発のコミュニケーションロボット「Jibo」


 ただし、生産設備の一環として、ある程度安定した継続した投資が行われる産業用ロボット分野と違って、この分野への投資は、景気やブームの影響をもろに受ける。その意味でも、ブームの浮沈を占う中核を担っているといってもいいだろう。

【次ページ】フィクションのロボットもバカにできない

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