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- 2017/01/30 掲載
「ロボット化」のメリットとデメリット、企業での導入はどう進めるべきか
森山和道の「ロボット」基礎講座
変種変量に柔軟に応える「協働ロボット」の利活用
そのうちの一つ目が、工場内で、しかし安全柵なしで、人と空間を共有しながら働く、「協働ロボット」である。
協働ロボットは、これまで人がやっていた作業を担うことが期待されている。生産年齢人口が年間100万人以上のペースで減少しているいま、現場では本当に人が足りなくなりつつある。この急速な減少は団塊の世代の引退が落ち着けば、いったん落ち着く。とはいうものの、今後、生産年齢人口自体が増えることはほとんど期待できない(あるいは「生産年齢人口」の定義自体が変わってしまえば別だが、それは数字上の辻褄合わせにすぎない)。
それを補うための一つの方策が省人化であり、それを担うのがロボット、人工知能である。今まではコストの問題もあって人のほうが安いと言われていた。ところがその安い人手の取り合いになっているのだ。
安川電機の協働ロボット「MOTOMAN HC10」
というわけで、いま、じわじわと協働ロボットの利活用が始まりつつある。ではどんなところで使われているのか。
圧倒的に多いのは、自動機械へのローディングとアンローディングだ。要するに、機械に作業対象(ワーク)を投入して、そこから運び出す作業だ。
ユニバーサルロボット「UR10」の活用例
これを、ただでさえ足りない人がやる必要はないというわけである。多くの現場は、人にはもっと付加価値の高い仕事をやってもらいたいと考えている。通常の機械であれば、機械と機械を通信でつながないといけない。そのためにはエンジニア、インテグレーターがいる。そこまでしなくても入れられる機械として協働ロボットが注目されている。
カワダロボティクス「NEXTAGE」を使った、エヌアイシ・オートテックによるカップ式洗浄機を使った小型部品洗浄デモ
いまの現場は変種変量に対応しなければならない。一定数の注文が一定量常にやってくるのであれば、専用のラインを作ってしまって無人化すればいいのだが、変化に対応しないといけないとなると、そういうわけにはいかない。あるときに急に注文がわーっとやってきて増産しないとなったとき、これまではパートを集めればよかった。だがその人手が集まりにくくなっているのである。
だからロボットメーカー側も、これまでのロボットとは違う売り方になっている。双腕の「duAro」を出している川崎重工業は、東京センチュリーと連携して、ロボットレンタル事業を2016年4月から行っている。
「第一回ロボデックス」での川崎重工業duAroのデモ
しかも金額設定が絶妙だ。標準仕様で6ヶ月ならば、月額18万2,000円(税抜)。非正規の月収と比較するとこの金額の意味がわかる。しかもロボットは24時間連続稼働も可能だし、必要であれば他のラインにまで移動して別の作業をやらせてもいいのだ。協働ロボットは、いままでの、床にアンカーボルトでドカンと固定して使うロボットとはまったくの別物である。
周辺コストを下げる方法とは
もちろんロボットの場合は、人間と違って動作はプログラムしてやらないといけないし、エンドエフェクターと呼ばれるハンドを別に作ったりする必要もある。そのような周辺設備の負担もできるだけ下げていきましょう、というのが業界の今のトレンドだ。たとえば昨年テラダインに買収されたデンマークに本社を置くユニバーサルロボット社は、ロボット本体のみを代理店経由で売っている会社だが、サードパーティが作った各種エンドエフェクターの類を、自社のウェブサイトで紹介して販売している。
ユニバーサルロボット「UR3」
デベロッパーとしては公認されているように見えて信用にもつながるし、一つの現場に対応して作ったものを他の現場でも売れるのであればラッキーということになる。メーカー側も、自社ロボット利活用のエコシステムが広がることになる。みんながハッピーというわけだ。
大事なことは、人がやらなくてもいい仕事、あるいは「一人分未満の仕事」をどれだけ洗い出して、そこを機械やロボットを投入して自動化できるかにある。
いまは技術自体はだいぶ進んでいて、頑張ってしまえば、工場内のほとんどの作業を機械で置き換えること自体は可能だろう。問題はコストの見極めであり、また、どれだけ柔軟に変化に対応できるかにある。
デクシスの「外観けんた君」による化粧品容器外観検査デモ
どのような視点でロボットを選ぶべきか
現実的に考えると人間を完全に排除するのは難しい。導入コストを考えても、できるだけ環境をいじくりまわすことなく、サクッと導入できる機械が望ましいということになる。そうしながら、徐々に徐々に省人化を進め、無人化へと切り替えていくことになるのだろう。ロボットは魔法ではない。あまり背伸びせずに、できることから始めていくというのは、ロボットを売る側からも買う側からも望ましいアプローチだろう。
人手不足の問題だけでなく、ロボットを使うと精度も上がることが多い。よって、工場や物流現場における、機械への最適化の流れは止まらないだろう。
ただし、完全無人化と省人化ではだいぶ考え方が違うので、無人化のときにはゼロベースで考え直すことになる。その時には、プロセスの見直しも同時に進む。どれだけ業務を標準化していけるか。
そして標準からはみだす部分に、ロボティクスや人工知能技術──具体的にはカメラや力覚センサー、リアルタイムに、すなわち動かしながらロボットの動作を生成し修正する技術などを活用して、どれだけ対応できるようにしていくか。技術開発もここが焦点だ。
セイコーエプソンの力覚センサーを使ったロボットのデモ
技術はどんどん進んでいる。かつてはまったくできなかったことが安価にできるようになっている。だが、できないことはまだやっぱりできない。どちらも現在のロボット技術の真実なのだ。できることとできないことを見極める。結局、そこが鍵だ。
工場内の話だけではない。おそらく農業もそうだろう。農業用ロボットに関してはそのうち別途、触れたいと思っている。建設や土木分野での活用も期待されており、徐々に徐々に、自動器具的なロボットも使われ始めているが、こちらは農業以上に現場現場ごとに特化しており、なかなか難しいかもしれない。
人の行動と感情をコントロールする
いま再び、もう一つ注目されているのは「サービスロボット」である。公共空間や家庭で、人間に対して何かしらの「サービス」を行う。NECプラットフォームズ 「PaPeRoi」 によるロボット漫才
「サービス」とはなんだろうか。具体的には案内や受付、搬送、見守りや家電インターフェースのことだとされているが、筆者は、突き詰めていえば、ロボットを使った人の行動・感情のコントロールのことだと思っている。
つまりサービスロボットとは、人の行動と感情をコントロールするロボットなのである。
こういう言い方をすると勘違いされてしまいそうなので補足するが、マインドコントロールや、人を支配しましようといった話とは、まったく違う。人の行動を、サービス導入側が望んでいる方向に誘導するという意味だ。そしてサービスを受けたユーザー側にとっても、感情面でも、できるだけ楽しく、不愉快にならないように誘導するという意味である。
例を出していえば、公共空間にあるエスカレーターである。階段の横にエスカレーターが設置されていたら、多くの人がエスカレーターを利用するだろう。つまりその人たちは、動線をエスカレーター側に誘導されているのである。しかも利用した人の側も「楽チンだな」と思うだけで、動線を強制されたとは思わない。だが実際には誘導されているのだ。それと同じことだ。
「動く歩道」や、床面や柱に描かれた案内矢印も同類だ。既存の、サービス提供側が考えたプロトコルやルールに人を乗っけてしまうというわけだ。それは、家庭や公共空間など工場外の空間を、あたかも工場内空間に徐々に近づけていくことでもあり、それをどこまで人が受け入れるかという問題でもある。その受け入れのラインは、サービスの利便性もさることながら、どれだけ人本来の持つ自然な欲求に沿った誘導がなされているかによる。
サービスロボットを使うサービスも、エスカレーターのように自然でなければならない。どんな利便性・快適さがあるのか見ただけでわかり、人の欲求にできるだけ添い、自然と使ってしまうようなものでなければならない。それが、人の行動と感情のコントロールという意味だ。
「コントロール」という言葉に語弊があるなら、「デザイン」と言い換えてもいい。重要なことは、人だ。人の欲求や行動の仕方を中心に考えることである。
パナソニックの搬送ロボット「HOSPI」
【次ページ】医療や介護、小売などでの活用はハードルが高い理由
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