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  • 2018/02/28 掲載

清掃ロボット「未来機械」は、どのように中東砂漠の太陽光発電パネルを綺麗にするのか

森山和道の「ロボット」基礎講座

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香川県高松市に拠点を置く未来機械は、中東の砂漠に敷き詰められた太陽光発電パネルを清掃するロボットを開発しているベンチャー企業だ。雨が降らない乾燥地域に敷かれた太陽光パネルは定期的に清掃しないと砂塵に覆われて、発電効率が落ちる。そこを掃除するためのロボットだ。前回のロボットブームの2004年に起業して、いよいよ飛躍しようとしている未来機械の代表取締役社長三宅徹氏に、同社のこれまでの歩みと現在の取り組みについて伺った。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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未来機械のソーラーパネル掃除ロボットと、同社代表取締役 三宅徹氏

砂漠で動くロボットの敵は舞い散る砂塵と強烈な光、そして熱

 未来機械が開発しているソーラーパネル清掃ロボットの重さは28kg程度。仕組みはどちらかというと単純だ。ブラシとファンを使って砂塵を吹き飛ばすロボットである。パネル上は自律移動するが、通路と通路のあいだは移動できないので人が持ち運んで載せ替える。だが、未来機械が機能を絞りこんでロボットを開発しているのは理由がある。

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掃除ロボット。重さは28kg程度。バッテリー駆動で最大約2時間(約600㎡)掃除できる

 未来機械のターゲットエリアは雨が降らない砂漠乾燥地域である。雨が1か月間に何度も降る日本やヨーロッパは対象外だ。乾燥地域では砂がパネルに降り積もって、一ヶ月に約15%の発電能力が失われる。発電効率を維持するためには一週間に一回ほどの頻度で清掃する必要がある。

 これまでの太陽光発電所は小規模だったので手作業で掃除していた。だが今は大規模化している。たとえばアブダビでは発電設備容量1.2GW(ギガワット)、つまり原発一基(おおよそ1GW)を超えるほどの太陽光発電所が建設されているという。広さは1GWあたりパネル約300万枚、東京ドーム約180個分の面積だ。こうなると掃除の管理も大変だ。しかも気温が50度以上になることもあり、人力では難しい。そこで、「コストは人と同等でもいいから機械化したいというニーズが生まれる」のだと三宅氏は語る。機械化すれば品質が安定するからだ。



 もう1つポイントがあり、未来機械のロボットは水を使わずに掃除をする。従来の人手での清掃は水を使っていた。だが場所は砂漠なので、タンクローリーで持って来る必要がある。しかも電気を使って海水を淡水化して作った水だ。

 本来は水を使いたくない。そこで未来機械では、手作業で水を使った掃除と同様の効果が得られる清掃方式を開発した。それが前述の、ブラシとファンを使った掃き掃除だ。

 ブラシはプラスチック樹脂の比較的細い毛をねじってある形状で、それが回転して、砂をパネル外に履き飛ばしていく。吸い込むよりもバッテリーを食わないので、この方式を選んだ。吸引ではなく「吹き飛ばす掃除技術」で特許も取っている。

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プラスチック樹脂製のブラシが砂塵を払っていく。裏面は企業秘密のため撮影禁止

 砂漠の強い日射環境も敵の1つだ。ロボットが移動していくためには外部環境――このロボットの場合はパネル端部を認識する必要がある。未来機械ではローラーや接触式のセンサー、市販品のレーザーセンサーを使ってみたが、それらでは狭い溝が見つけられなかったり、地面の砂に日射が当たるか否かで認識が大きく変わる状況には対応できなかったという。

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黒いネットは直射日光を避けるための日よけ

 静電気を帯びる砂塵はセンサーを覆ってしまうこともあり、それへの対処も必要になる。帯電防止塗料もあるが「砂は種類によってプラスにもマイナスにも帯電する。極性が決まらないので対策が決まらないのです」と三宅氏。

 そこで未来機械では砂が舞い散る環境でも使えるセンサーを独自に開発した(方式は未発表)。ロボット裏面8箇所に配置されたセンサーを使って、ソーラーパネルの端を見て走行し、方向転換することで、パネル全体を掃除する。30mmまでの隙間であれば乗り移るが、それ以上は渡れないので、1アレイ(アレイ:パネルを複数枚つなげた単位)を超える場合は、人が持ち運んで移動させるという使い方を提案している。

「地上走行型のベースロボットがハンドリングするなどの方法で、全部自動でやることも考えました。しかし大掛かりになりすぎるのです。下はラフな地面なので、レールを敷かずに移動させるのも難しい。そこで最小限の人を投入して、(移動は)人が担うほうが作業としては最適だろうと判断しました」

 人が行う作業はロボットの移動と、2時間おきのバッテリー交換だ。ロボットを10台ほど同時に動かし、ロボットを移動したり、バッテリー交換したりするようなイメージを想定している。「羊飼いが羊をコントロールするように、ロボット全体の面倒を見る使い方」だという。

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バッテリーは簡単に着脱できる

 日本のソーラーパネルは比較的きれいに並べられているが、海外ではばらつきが大きく、段差が5㎜に達する場合もある。その段差や隙間のばらつきもロボットにとっては過酷になる。

 走行タイヤも段差に対応できるものにしており、おおよそ15度程度の角度であれば上り下りできるし、スリップにも対応している。ロボット清掃技術の競合はあるが、三宅氏は「我々がリードしている」と胸を張る。

 ロボットは移動ログを取ることができるので、単純な清掃だけではなく、センサーを付けて太陽光発電の効率が落ちている「ホットスポット」などを見つける検査装置とするための機能も研究開発中だ。

 なおコントロールボックスは当然、砂塵対策のためファンレスで、ヒートシンクを使っている。本体上の黒いネットは日よけだ。直射日光を本体にあてず、日よけの下を空気が流れることで、過熱を防いでいる。

ターゲットは大型発電所と屋上清掃

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未来機械
代表取締役社長
三宅徹氏

 2018年2月現在、未来機械のロボットは、中東の3ヶ国――サウジアラビアとUAE、カタールに数台ずつ導入されている。いずれも数MW(メガワット)程度のパイロットプラントで評価中だが、現在、各地で数GWクラスの太陽光発電所が建設中で、そこをターゲットとしている。

 もう1つの市場は、工場やショッピングモールの屋上などに設置される数MW程度の小型発電施設を狙った、ロボットによる清掃ビジネスだ。「窓拭き掃除屋さんみたいなビジネスです。定期的な掃除は必要で、誰かにアウトソーシングしないといけない。そこで我々が現地の事業者と一緒になって主体的にやろうとしています」。

 発電所の規模では前者のほうが大きいが、収益は後者の清掃ビジネスのほうが高くなるかもしれないと考えているという。中国製のパネル価格の下落に伴って、海外での太陽光発電のコストはどんどん下落しており、従来の火力発電よりも安くなっている。当然、清掃コストも圧縮される。そのため、大規模発電所ビジネスは規模は大きいが「価格には敏感な世界」だと語る。

新興国の電力需要増で、ニーズが急上昇

連載一覧
 2018年2月時点の未来機械の社員数は14名。ソーラーパネル清掃ロボットの開発を始めたのは2008年からだ。「本当にそんな掃除が必要なのかな、というところから始まりました」(三宅氏)。

 最初はアメリカのアリゾナに行った。「当時、オバマのグリーン・ニューディール政策が始まって、メガソーラーの原型があったので。やがて時代はPV(太陽電池)になっていくとは思っていましたが、当時はまだCSP(集光型太陽熱発電)か太陽光か、太陽光にしてもCPV(集光型太陽光発電装置)もあって、どの方式になるのかわかりませんでした」。実は未来機械も、最初はCSPのミラーを掃除することを考えていたと振り返る。

 だが実際に足を運んでみると、アメリカのミラーはあまり汚れていなかった。当時一緒に事業参入を検討していた、ある大手エンジニアリング企業も徐々にトーンダウンし、未来機械は2011年からは単独で研究開発を行うことになる。

 中東がいいのではないかと判断したのは2012年ごろ。実際に現地に行ってみたら、「指で触ると文字が書けるくらい」汚れている太陽電池があった。「これは掃除しないといけない、ロボットしかない」と思ったと言う。だが、そこからがさらに長かった。

「一向に太陽電池が普及しないんです。日本は固定価格買い取り制度ができた後に急に普及しましたが、中東はなかなか普及しませんでした」

 実際に開発が始まったのは太陽電池自体や建設コストが急激に下がりはじめた2015年以降だった。「二酸化炭素を減らすためというよりも、電力が必要なところに安く電力を供給する必要があったからです。太陽光発電は、火力発電や原子力発電よりも立ち上げが早く、かつ安いので」。

 そしてそのころから同社にも引き合いが来始めた。今ではインドでも同様のニーズがある。人口がどんどん増えており、一人あたりの電力消費も増えているからだ。

 実際に引き合いが来始める2015年までは発電所の配管検査ロボットや橋脚検査ロボットの移動機構などの開発を受託して、「7名で細々とやっていた」が、「きっと来ると信じて、小さなチームで研究開発を行なっていた」という。「極端に言うと、ここで開発した技術はほかにも使えると思ってましたから。最悪、アプリケーションを変えてもいいと思ってました」。



【次ページ】窓拭きロボットから太陽光パネルの掃除へ

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