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- 2017/06/01 掲載
コミュニケーションロボットは「ロボットがもたらす新たな価値」を考える格好の教材だ
コンシューマー向けロボットの行方
ただ、ソフトバンク「Pepper」が分かりやすい例だが、当初はコンシューマーを対象に発表・発売されたコミュニケーションロボットも、現実的にはBtoB向けを主な用途として展開されているのが現状だ。当初予約数1,000台を超えたと報じられたシャープ「RoBoHoN」も同じ道を辿りつつある。
最近はPepperもRoBoHoNも、教育市場を新たな重要ターゲットの一つとしているように見える。ソフトバンクは「Pepper 社会貢献プログラム スクールチャレンジ」というプログラムを実施して大々的にPepperを教材として学校に貸し出し始めており、またシャープはビジュアルプログラミング言語のScratchを使って「RoBoHoN」をプログラミングできるようにして学校対象に貸し出す事業を岡山県から始めている。
「STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)」、あるいはこれにArtを足して「STEAM」と呼ばれる教育に力を注ぐのは世界的な潮流だ。プログラミングの結果が物理的に出力されるため分かりやすく、対人インタラクションの難しさも学べるし、ソフトウェアだけではなく、ハードウェア自体を組み上げることもできるロボットは教材としてもってこいというわけだ。
また、前回一つ書き忘れたことがある。講談社「ATOM」は完成したらクラウド接続機能も備えたフルスペックのコミュニケーション・ロボットになる。もし仮に、これが1万台くらい売れてしまったら、おそらく既存のコミュニケーションロボットの市場を「ATOM」だけで超えてしまう規模となる。そうなると、これまでのBtoB展開のコミュニケーションロボット市場の状況を変化させることになるだろう。
「ATOM」は組み立てロボットなので、組み立てたユーザーたちには、それなりの愛着が残るに違いない。そのぶん、ユーザーとの接触時間は長くなる。そうすれば、これまでは展開できなかった事業も可能になるかもしれない。
ただしこれはそういった大きな絵を講談社が描いているかどうかは定かではないため、あくまで筆者の妄想にとどまる話ではある。何にしてもこの分野については「BtoCだから、BtoBビジネスと無関係」というわけではない。そもそもコミュニケーションという用途を設定したら、商売としてはBtoBでも、使われ方は結局BtoBtoC、個人とロボットのやりとり、ということになる。
「なんちゃって対話」にとどまるロボットとの会話
さて、本題に入りたい。今回は、コミュニケーションロボットについて、お話しておきたい。人と音声認識・合成技術と、ちょっとしたアクションを使って、主に対話を行う(そしてユーザーサービスを実行する)ロボットだ。なかにはMayfield Roboticsの「Kuri」などのように、「スターウォーズ」のR2D2のように喋らずビープ音と身振りだけでコミュニケーションするノンバーバル・コミュニケーション・タイプのロボットもあるが、少数派だ。人間:「こんにちは」
ロボット:「何かお探しですか?」
人間:「いや特にないよ」
ロボット:「じゃあ僕とお話しましょう。最近楽しかったことはなんですか?」
こんなやりとりで、ロボットとの「会話」を試してみた読者も多いと思う。現状の音声認識技術だと発話中に認識をかけることができないので、互いに発話を終えて、はい次は認識、といった交互のやりとりにならざるをえない。まるで一昔前のトランシーバーでのやりとりのようだ。
最近はAIブームで講演会やシンポジウムなどで「音声認識はできるようになりました」と言い切ってしまう人たちもいる。だが、スマホで一単語ずつ区切って発声するならいざ知らず、実際の現状はこんなものである。相変わらず音声は不安定な入力であり、それを頼りにアプリケーションを開発しないといけない状況は変わらない。
一般に、ロボットは「賢いもの」だと考えられている。人と自然なやりとりを期待されており、擬人化されやすい外見にされることも多いため、一般の方の中には、それなりのコミュニケーションが取れるのではないかと考えている人も多い。
またセンサーのノードでもあるため、人とスマート家電などとの間を繋ぐインターフェースの要として考えるビジョンもいまだ根強い。こういったことから、各メーカーからコミュニケーションロボットが絶えず企画されるのもわからないことではない。
だが、コミュニケーション・ロボットには実に難しい課題がある。コミュニケーションはとても知的な作業だ。だが、現在の人工知能技術は人と会話できるレベルに達していない。これが最大の問題だ。音声認識や合成能力はもちろん、会話を理解することも、返事のための言葉を組み立てることもできない。だからなんとか擬似的な「なんちゃってコミュニケーション」でごまかせないかということになる。そういうレベルである。
重さのないものを運ぶコミュニケーションロボット
しかし、コミュニケーションロボットは企画され続け、発表され続ける。理由はいろいろな側面から語れると思うが、ここではコミュニケーションロボットとはそもそも何なのかという経緯から考えてみよう。以前、このコラムの第3回で述べたことの繰り返しになるが、もう一度強調しておく。最近になってロボット技術がある程度進み、とりあえず移動はできるようになった。掃除ロボットはその移動能力を生かしたサービスロボットである。じゃあ次は、腕を使って何か作業させられないだろうか。たとえば冷蔵庫から缶ビールを持ってこさせるロボットはできないか。しかし、腕を使った複雑な作業は現状はとても難しい。ものをつかむ作業は、まだ今後のロボットの課題である。
物理的なものを持ってくることはできない、だがなんとか役に立てたい。ならばどうするか。重さがないモノだとどうか。たとえば「情報」ならば重さはない。情報を持ってくるロボットにしよう。こういった発想で作られたのがコミュニケーションロボットである。
つまり現状のサービスロボットには特にできる作業がないので、重さのないものを持ってくるという発想で作られたのがコミュニケーションロボットなのだ。
ただし、ロボットが情報を持ってくるためにもさまざまな技術が必要になる。音声認識はもちろんのこと、スムーズなインタラクションをするためのさまざまなテクニック、たとえば対人距離の取り方や、会話の主導権の構成法などなどの技術が必要だ。
いまのコンピュータは、言葉の意味を理解することができない。だから人と行うのは人工無脳的な、擬似的な会話にならざるをえない。たとえそうであっても、少しでもそれなりに見せるためのテクニックはあるのだ。
また、ロボットならではの特性もある。タブレットに「そこのアレですよ」と言われても、「どこの?」となるが、もしロボットが、適切なリアルタイム性とそれなりの精度をもって、「そこ」を、アームと手を使って指差したりできるのであれば、タブレットには持ちようのないコミュニケーション手段を活用できる。ただ、これもまだまだなかなか難しい。各種研究は行われていて、単一技術だけを実装してデモンストレーションすることはできるものの、現在の商品としてのコミュニケーションロボットに、そういう技術を十分に実装して活用できるレベルにまでまだ達していない。
【次ページ】あまりに定型的すぎるやりとり
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