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  • 2017/04/04 掲載

人工知能は、製造業のロボット活用をどう進化させるのか? 動きを「自動生成」へ

森山和道の「ロボット」基礎講座

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労働力人口の減少などに伴って改めてロボットに注目が集まっているが、製造業分野での活用は古くからあり、決して目新しいことではなかった。しかし、人工知能(AI)の進化とともに、従来ロボットを導入する際に課題となる「動作のプログラミング」を自動化できるようになってきたため、まったく新しい適用分野が模索されている。AIはロボットをどのように進歩させるのか。今回は特に製造業分野での活用可能性を眺めてみよう。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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FA最大手のファナックとAI技術のPreferred Networks(PFN)が手を取り合ったシステムはAmazon Picking Challenge 2016で好成績を収めた
(写真:ビジネス+IT編集部)


AIはロボットをはるかに上回るブーム

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 年度末で各種シンポジウムが続いている。特にAI関連のシンポジウムの多いこと、多いこと。毎日どれに参加しようかと迷っているのは筆者だけではないと思う。AIはロボットをはるかに上回るブームとなっている。

 製造業で人工知能応用というと、まず第一に挙げられるのはいわゆるIoT活用、大量のセンサー情報を使った故障予兆の検知である。機器が壊れてしまったら工場を止めなくてはいけなくなる。そうなってからでは遅いので、壊れるまえに検知するのである。モデルを作るにはデータが必要だ。異常な状態自体はレアだが、正常な状態というのはわかっているので、そこからの異常値が出ると異常と判定するというモデルで取り組んでいることが多いようだ。

 いってみれば、工場のなかでベテランの職人さんが「どうも妙な音がする」とか、「この振動は嫌な予感がする」と言っていたのを、AIでやらせようというわけだ。実験では既に人間を上回る性能を出していると聞くことも多い。これまで言語化されていなかったため属人化していた知恵が、機械によって実現しようとしている。

 また、いまだに試行錯誤でパラメータを探りながらモノを作らざるをえない現場もある。ものづくりにおける複雑な化学反応や燃焼、結晶成長などの過程は、十分に解明されているわけではない。

 そういった未知が多い領域にAIを活用することで、工業的に最適なパラメータを探るという研究アプローチも進められている。これらは現在大流行のディープラーニングとも相性がいい。大量かつ正確な観測データが得られるし、とりあえず出力の「正解」がわかっているからだ。製造業への人工知能応用は徐々に進んでいくと思う。

 では、ロボットにはAIはどのように使われるのだろうか。AIとロボティクスはもともと一体の技術なので、敢えて分けて捉えるのはおかしな話なのだが、とりあえずそういう話は横に置いておいて、ここではロボットをさらに高度化する技術としてAIを捉えて、話を進める。

AIに求められるもの=どうやったらロボットを簡単に入れられるか

 何よりも現在の産業用ロボットが求められているのは、導入コストを下げて現場に入れやすくすることだ。導入コストとはカネと手間である。両者が下がれば、これまで入ってなかった現場にもロボットを入れられるようになる。当然、AIに期待されているのも、ここだ。どうやったらロボットを簡単に入れられるか、である。

 ではどうやったら減らせるかというと、二つの方向性があると思う。一つは環境変動へのロバストな対応。もう一つは動作生成コストの減少である。両者はそれほどくっきりわけられるものでもないが、とりあえずこの二つで考えたい。

 まず前者、環境変動への対応能力を上げるとはどういうことかというと、治具を使ったり、照明条件をシビアにしたりしなくても、十分な精度を出せるようにするという意味だ。ロボットはセンサーの性能もモーターの性能もどんどん良くなっていて、以前はできなかったこともできるようになっている。だが、いまだにロボットは環境の変化に弱いのも確かだ。だからきっちり動けるように、環境を綺麗に整えてやったり、照明が変動しないように工夫したり、マーカーをつけて位置を教えてやったりしないといけない。何よりも、ロボット用に工程を見直して組み直すことも必要だ。

 しかしながらこれでは変種変量対応は難しいし、ロボットと動作環境自体の設置面積が大きくなってしまい、中小企業ではなかなか導入が難しい──といった、言わば「いつもの話」から抜け出すことができない。それらをなんとかして、あえて乱暴な言葉を使うと、かなり雑な現場にボンと置いても動けるようにすることが求められる。そうでないと、パートの人が一人休んだときに、今日は代わりにロボットを入れて間に合わせましょうという話にはならない。そのためにはロボット自体に環境を認識して適応する賢さ=知能が必要だ。

プログラミングレスでロボットが自ら動作を自動生成

 もう一つの動作生成コスト減とは、極端な話をすると、ロボットに対して初期状態と最終状態だけ示したら、あとの中間部分については、ロボットが自分の動きを勝手に生成してくれるようになってほしいということである。いわば「これをこうしてよ」と言ったら、あとは勝手にやってくれないかなあ、というわけだ。身勝手な要求のようだが、これができるようになったら賢い機械として多くの人が認めてくれるだろう。

 ロボットはプログラムによって動作を変えることができる。これがロボットの大きな特徴だ。いや、これができないとロボットではない。だが、だからこそ面倒臭い、触りたくない、と言われることも少なくないのである。何しろロボットの動きを作るのは大変だ。

 たとえばペットボトルのようなごくごく当たり前の物体であっても、ゼロから操作を考えるのは難しい。どこをどうどのくらいの力で持てばいいのか、あるいはどこを持ったらいけないのか、キャップはどう動かせばいいのか。ロボットや機械にその操作を教えるには、操作を明確に定量化しなければならない。面倒だ。

 それだけではない。事前に動作を作り込んでやるためには、単に右から左へとモノを運ぶだけでも、何が流れてくるのかわかってないといけない。しかし、そもそも事前に動作を作り込めない状況もある。そこは人手を使わざるをえないのが現状だ。これを何とかしたいと多くの人たちが考えて努力している。

 ロボットは外界・内界をセンサーで計測して、自分の動作を生成するが、計測には必ずズレがある。そもそも操作する対象自体のズレもあるのだ。それらのズレをどう吸収すればいいのか。そのためには教えられた動作をきっちり再生するティーチングプレイバックの精度を上げればいいというわけにはいかない。自分が何をしようとしているのか、目標を理解した動作を実現するために、ある程度、汎化された動作生成規範を自分の内部に持って動きを作る必要がある。

 この手の話で一番よく知られているのが、おそらくファナックとPreferred Networksによるバラ積みデモだろう。機械学習を使うことで熟練技術者によるティーチングを経ることなく、センサーでばら積みされたワークの状態を把握したロボットがピッキングすることができるようになったというものだ。取りやすいモノから取っていくことができる。両者のこの取り組みは日本ベンチャー大賞の「経済産業大臣賞(ベンチャー企業・大企業等連携賞)」となった。

ファナックとPrefferd Networksによるバラ積みピックアップ


 ファナックは製造業向けIoTプラットフォームとして「FIELD system」を提唱して、ロボットの高度化・活用領域の拡大を行おうとしている。エッジ側でデータ処理をする「エッジヘビーコンピューティング」を掲げている。

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ファナックのIoTプラットフォーム「FIELD system」の概要
(写真:ビジネス+IT編集部)


【次ページ】実際の現場で通用するのか?

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