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  • 2012/03/16 掲載

「紙」から「スマホ」へと変化する社会に求められるもの:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(40)

スピード感が異なる技術変化と制度変化

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ITが企業活動に及ぼす影響は、組織再編などの大掛かりなものから、文書のデジタル化まで幅広い。そのため、IT時代の企業経営では、網の目のように張り巡らされた各種の制度変更が必要になる。この点は日本に限らず世界各国で共通のことだ。大切なのは、技術変化の激しいスピードに対処できる制度の「形成能力」であり、“ソフトな”インフラ力である。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
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インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

これまでの連載

「紙からデジタル」にも法制度の壁

 朝の通勤電車で、「スマホ」を使ってニュースを読むビジネスパーソンが多くなった。ほんの数年前までは、二つ折りにした「紙」の新聞を読むのが当たり前だったことを思い出すにつけ、この変化は劇的だ。タブレット端末や電子書籍の登場で、私たちの日常生活は新聞や書籍など紙媒体の情報伝達からデジタル情報の伝達へと急速にシフトしている。

 ビジネスの現場でも「紙」から「デジタル」への変化が続いているが、現在に至るまでには、いくつかのハードルを越えなければならなかった。前回みた「制度変化」というハードルだ。ビジネス活動は、情報のやり取りの“束”といえるが、その中核を担う会社の仕組みは、ITが登場するはるか以前に「紙」をベースにできあがっていたからだ。

 たとえば、会社の目的などを定めた定款や業績記録の損益計算書などについて、かつての法制度では、記録媒体として印刷物が前提となっており、ITを駆使した運用はまったく想定されていなかった。そのため、1990年代までは、定款や決算書を電子的に作成し、デジタル情報としてネットで開示したり、株主総会での議決権行使をネット経由で行ったりすることが正式には認められていなかった。

 もちろん、今では、これらの行為は上場企業では当たり前のことだ。前回みたとおり、ITの急速な普及をうけて、2000年前後にさまざまな企業関連の法制度見直しが進められ、株主総会の通知や議決権行使の電子化についても、異例の速さで改正作業が進められたからだ。

IT革新と制度変化はグローバルな現象

 企業活動を取り巻く法制度の大幅な改正は、日本以外にも、先進国、途上国を問わず世界各国で共通に見られる現象のようだ(注1)。神田(2000)は、諸外国における1990年代の会社法改正の背景として、第1に、会社法制が重要な制度的インフラとして国の経済政策においてその在り方が問われるようになったこと、第2に、情報通信技術の発達により企業を巡る競争環境が変化したことを挙げている。

 つまり、技術革新に伴って制度問題が生じることは各国に共通で、日本だけが問題を抱えているわけではないのだ。「情報技術」と「制度変化」は表裏一体のもので、これがグローバルな現象だとすれば、重要なのは、前回解説した制度の制約や空白そのものではなく、その背後にある制度の「形成能力」だといえる。

 技術体系が一定で、経済の仕組みがあまり変わらないような社会であれば、不磨の大典(注2)とでもいうような確固たる制度を構築し、粛々と運用していけばうまく回っていくだろう。だが、現在のように技術変化で次々と新領域が生まれる社会環境では、堅牢な制度よりも、新しい問題に対処して「柔軟に」制度を形成していく能力のほうが重要になる。

 そして、制度の形成でカギとなるのが人的資源だろう。法律や会計などの制度は「ヒト」が知恵を絞って創り出すもので、専門知識を持った人材の層の厚さが制度の「形成能力」を左右すると考えられるからだ。これは、ハードな物的インフラに対して“ソフトな”インフラといえる。

【次ページ】IT革新と企業再編と法改正の密接な関係

脚注
注1 たとえば、岩原(2000)、神田(2000)参照。
注2 すり減らないほど立派な法律という意味。もともとは大日本帝国憲法の発布勅語で使われた。

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