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- 2017/05/19 掲載
業界の垣根を超えるアマゾン、「産業」の定義を揺さぶる 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(86)
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変わり続けたアマゾンのライバル
ところが、情報技術革新の威力がこの定義を揺さぶっている。というのも、同質の財・サービスを生産していながら、必ずしも同じ産業=業界には属さない企業が存在感を増しているからだ。
たとえば、アマゾンという会社を考えてみよう。同社はもともと、ネットを通じて書籍の販売を手がける目的で1994年に設立された。パソコンとインターネットが一般に普及し始めたばかりの頃だ。
設立当初に競争相手となった「同業」のライバル企業は、日本なら紀伊国屋書店や丸善などにあたる大手書店の米国バーンズ&ノーブルだった。その後、出版業界の垣根を越えて事業を展開し、書籍以外にもさまざまなモノの販売を手がけるEC(電子商取引)サイトの運営企業へと進化した。このビジネスでは、日本の楽天や中国のアリババなどが「同業者」だ。
それ以降もアマゾンのビジネス展開は留まるところを知らない。巨大ECサイトの運営で培ったクラウド・コンピューティングの技術を活かし、AWS(Amazon Web Service)を提供、今やサーバ、データベース、ストレージ、コンテンツ配信サービスなどを一手に手がける有力なプラットフォーマ―となっている。「同業者」はグーグル、アップル、フェイスブックで、頭文字をとってGAFAと称される。
FinTechの本質は銀行以外の企業参入
アマゾンのビジネス展開から読み取れるように、技術革新に伴う社会の変化によって新しい企業が次々と生まれ、それらの企業が群を成して業界=産業を興し、経済全体の中で比重を高めていく。重要なのは、こうした新ビジネスの波が、歴史と伝統を持つ「既存の業界」の垣根を越えて、怒涛のように押し寄せていることだ。
たとえば、金融をみてみよう。この業界ではFinTechが空前のブームだ。日本でも銀行などがIT系のベンチャー企業と連携して、決済、資産運用、審査、融資などの領域で新たなサービスの開発を模索している。
ここで、肝に銘じるべきことは、新たな金融サービスの担い手が、もはや銀行など伝統的な金融機関だけではないことだ。
新興国や途上国を中心に急拡大しているEC市場では、アリババが提供する「アリペイ」などECサイト運営企業が提供する決済サービスが、また、出稼ぎ労働者などによる国境を越えた送金サービスでは、複雑な銀行間の決済システムを介さないモバイル・マネーなど低コストの仕組みが急速に広がっている。
これらに共通するのは、情報のやり取りを正確に記録して伝えることさえできれば、これまで金融取引に縁遠かった人々に、市場へのアクセス機会が生まれていることだ。
連載の第64回でみたように、先進国のみならず途上国も含めてモバイル技術が行き渡ったことで、貧しい人々の稼得機会が高まっている。FinTechの底流には、高い送金手数料や口座管理料が壁となって金融システムから排除されていた人々を包摂するFinancial Inclusionの動きがあることを見逃してはならない。
今後は、支払い能力はそれほど高くなくても、情報装備で経済活動力を高めた数十億人の人々に金融サービスを提供し、その旺盛な需要を満たすことが成功のカギを握るとみられる。目下のところ、重装備で身動きがとれない既存プレーヤーを尻目に、新規参入者がビジネスチャンスを一気に開拓する気配だ。
【次ページ】イノベーションは思いがけない新規参入者がもたらす
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