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  • 2012/08/17 掲載

ITは所得格差も引き起こす?議論を呼ぶ「所得の二極化」 :篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(45)

報酬の高い人と低い人は何が違うのか

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情報化が進展する中、ジョブレス・リカバリーやパーマネント・ジョブ・ロスと並んで議論を呼ぶのが「所得の二極化」だ。新しい技術との補完関係をうまく築くことができる人材は高い報酬を得る一方、それがうまくできない人材は次々に登場する新技術との競争に直面し、低い報酬しか得られない。技術体系が比較的安定している環境では合理的な年功賃金も、不連続な技術変化のイノベーション時代には見直しが迫られそうだ。
これまでの連載

議論を呼ぶ「所得の二極化」

 歴史を振り返ると、どんな時代であれ、技術体系が大きく変わる時には、かつて当たり前だった仕事がもはや必要ではなくなりがちだ。とりわけ、GPT(General Purpose Technology)として、業種を問わずあらゆる分野に普及するITの場合は、その影響が広範に及んでいる。

 情報化で特徴的なことは、連載の第30回でみたように、新技術の導入によって工業の時代に肥大した企業という組織のあり方が問われるようになり、企業内の取引や企業間の取引で重要な役割を担っていたホワイトカラー層にその影響が強く表れる点だ。

 しかも、それは景気が回復すればまたもとの職に復帰できるというような循環的なものではなく、恒久的なものになりやすい。これが、前回前々回でみてきたジョブレス・リカバリーやパーマネント・ジョブ・ロスの厳しさだ。

 もちろん、技術革新で新領域が切り拓かれて景気拡大が続き、生産性が上昇していけば、経済全体の富は増加する。問題は、それがどう分配されるかにある。急速な情報化の進展のなかで議論を巻き起こしているのは、ジョブレス・リカバリーやパーマネント・ジョブ・ロスといった「雇用不安」に加えて「所得の二極化」という現象だ。

失業増加と所得格差はなぜ同時に起きるのか?

 技術と雇用が競合する場面で、雇用不安に加えて所得格差が生まれやすいのは、生産性―報酬曲線でうまく説明できる。このグラフでは縦軸が報酬、横軸が生産性を示している。

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図表1 生産性-報酬曲線

 現代社会においては、文化的最低限の生活を保障する社会福祉の仕組みが整っていることもあり、それが維持できないほど低過ぎる水準の報酬であれば、人々はその仕事に就くよりも失業を選ぶと考えられる。このような、人々が働いてもよいと考える最低水準の報酬を留保水準と呼び、グラフでは水平の線で示されている。別の見方をすると、この線と右上がりの生産性-報酬曲線の交わる点が(自発的か非自発的かを問わず)失業のポイントとなる(図表1)。

 ここで、技術革新が起きると生産性-報酬曲線や失業のポイントはどう変化するであろうか。技術革新にうまく適合し、新しい技術と補完関係を築くことができる人材は、生産性を飛躍的に高めることができるだろう。こうした人材にはあちこちから引く手あまたの仕事が舞い込み、高い報酬を得ることができる。

 その一方で、時代の変化についていけない場合は、生産性が相対的に見劣りすることになるばかりか、進歩し続ける技術との厳しい競合に直面して低い報酬しか得られない。そうなると、右上がりの生産性-賃金曲線の傾きは、ますます急になってしまう(図表2)。この傾きの変化(急勾配化)こそが「所得の二極化」を端的に表している。

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図表2 技術革新による生産性-報酬曲線の変化

 図表2から明らかなとおり、傾きが急になると失業のポイントは右に動くことになる。つまり、「失業の増加」が起きるのだ(図表3)。これが、情報化の進展とともにみられる「雇用なき回復」と「所得の二極化」の同時発生メカニズムといえる。

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図表3 技術変化と雇用なき回復と所得の二極化

【次ページ】ラーニング・バイ・ドゥーイングと不連続なイノベーション

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