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  • 2017/03/16

なぜシンガポールに本社機能が集まるのか? 進む「頭脳拠点」の集積 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(84)

今、人口6億5,000万人のASEAN市場に世界各国の企業が押し寄せている。これらの企業の特徴は、実際の事業拠点がASEAN各国に広がる一方で、地域統括拠点はシンガポールに集中していることだ。情報時代のグローバル・ビジネスで本社機能を引き付ける都市の魅力とは何か、現地で探った。

九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠﨑彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠﨑彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
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インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

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今やASEANの本社集積地と化すシンガポール
(写真:筆者撮影)


ASEANビジネスの本社はシンガポール

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 東南アジア諸国連合(ASEAN)は、サービス、投資、資本、熟練労働者の自由な移動の実現を目指し、2015年12月末にASEAN経済共同体(AEC)を創設した。

 10カ国から成るこの共同体は、人口6億5,000万人、GDP2兆5,000億ドルの規模を誇り、過去15年間の実質成長率は単純平均で5.7%、今後2021年までも同率の成長が続くと見込まれている(IMF統計)。規模、成長性、多様性の面で魅力ある市場だ。

 この多様性に富む巨大市場で活動する企業の統括拠点となっているのがシンガポールで、連載の第81回で紹介したスマホによる配車アプリの成長株Grabもその一社だ。

 日本でもソフトバンクやホンダの出資で話題となったGrabは、ハーバード大学の学生だったAnthony Tan氏らが2012年にマレーシアで事業を開始し、現在はクアラルンプール(人口737万人)の他、ジャカルタ(3,132万人)、バンコク(1,532万人)、ホーチミン(1,008万人)、マニラ(2,293万人)など6カ国35都市で事業を展開中だ。

 現場の事業そのものを考えると、人口573万人に過ぎないシンガポールは、決して大きな市場ではない。だが、ASEAN各国で事業活動をしつつも、本社はシンガポールという例は、業種や国籍を問わず、広く観察される。

 ジェトロ(2016)によると、地域の統括拠点(=本社)をシンガポールに設置する日系企業は2010年以降に急増しており、「欧米多国籍企業をはじめ、中国企業などもシンガポールに設置する動きが強まっている」と豊富な事例を交えて報告されている。

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シンガポール法人における地域統括機能の設置年
(出典:ジェトロ(2016)より転載)


なぜ地域の統括拠点化が加速したのか?

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高層ビルも建ち並ぶ
(写真:筆者撮影)

 2010年代に地域の統括拠点(=本社)をシンガポールに設置する動きが加速した背景としては、(1)リーマンショック後に高まったアジア市場の重要性、(2)各種の中国リスクを意識した「チャイナ・プラス・ワン」の動き、(3)2015年創設のASEAN経済共同体をにらんだ対応などが挙げられている。

 ただし、これらの事情はどの主要都市にも当てはまる。将来性に溢れるアジア市場の地域統括拠点として、他の都市ではなく、シンガポールに本社機能を引き付ける魅力とは何だろうか。この点を探るべく、2017年2月に現地調査を実施し、関係者の話を聞いた。

 本社機能はなぜシンガポールなのか、この点を掘り下げると、この連載で解説した情報の時代に求められるソフトなインフラ=制度の問題知的活動を担う専門人材のライフスタイルが影響しているようだ。

 日系企業のアジア進出は、急速な円高が進んだプラザ合意後の1980年代後半に製造業を中心として活発化した。それゆえ、自動車産業など「製造」に重きをおく統括拠点としては、タイにも一定のプレゼンスがある。これは「事業拠点の強化」が目的といえる。

 他方で、財務、法務、企画など「経営全般にかかわるガバナンスやマネジメント機能」としては、地域を見渡す“本社”としてシンガポールが重要視されている。

 理由の一つは、タイやベトナムなど「陸のASEAN」とインドネシアやフィリピンなど「海のASEAN」をつなぐハブとしての有利な立地条件だ。

 ジェトロ(2016)のアンケート調査でも、シンガポールに地域統括機能を設置する理由として、9割以上の企業が「周辺地域へのアクセスが容易な立地にあるため」と回答し、トップの項目となっている。

情報時代に重要な「時間価値の高い人材の移動」

 実は、この立地条件はモノの移動=物流だけではなく、人の移動という面でも重要だ。昨年8月に現地調査したジャカルタでは、市内の交通インフラが未整備で慢性的な激しい渋滞に苦労した。

 その点、シンガポールは別世界だ。チャンギ国際空港は、ASEAN各国へのアクセスに便利なだけでなく、出入国手続きの迅速さや空港から市内へのアクセスという点で、情報の時代に富を生み出す「人材の移動」に優れている。公共交通網による市内の移動も、段差が少なくバリアフリーなので、大きな荷物があっても心理的負担が軽い。

 統括拠点で活動する「時間価値の高い人材」にとって、着陸してから自宅やオフィスに1時間もかからないのは大きなメリットだ。しかも、ショッピング、レストラン、ナイトライフなど、こうした人材が求める豊かで潤いある生活も叶えやすい。

 この点は、ハイテク産業の本場である米国西海岸と同様だ。連載の第67回で解説したように、新興企業のオフィスは優秀な若手エンジニアが好むサンフランシスコ市街地に集積しはじめており、有力企業もシリコンバレーから移転する動きをみせている。

 インドのバンガロール市もそうだが、頭脳誘立地型の産業が主力となる時代には、人材を惹きつける地域特性が無形資産として価値を高めている。

【次ページ】なぜシンガポールに本社機能が集まるのか?

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