1980年代の通信自由化は世界的な動き
日本で通信自由化が始まったのは1985年のことだ。今年はそれからちょうど30年目に当たる。この間、ほぼ10年ごとに大きな3つの変化が起きた。まず、1985年の4月に電気通信事業法が制定されて、それまで国営の日本電信電話公社(電電公社)だけに認められていた通信事業に民間企業が参入できるようになり、同時に電電公社自体もNTTへと民営化された。
アメリカでもちょうど同じタイミングで似たような動きがあった。アメリカでは民間企業のAT&Tが通信事業を営んでいたが、当時は巨大な独占企業だったため、分割して他の事業者が自由に参入しやすい競争環境が整備された。
つまり、通信自由化は日本だけでなく、国際的にも共通してみられる動きだったといえる。1980年代の半ばごろは、ビジネス活動でコンピュータ化が進み、そのやり取りで通信ネットワークが重要な役割を担い始めていた。「モシモシ、ハイハイ」の音声電話の時代からデータ通信の時代へと変わり始めていたのだ。
その当時は、「VAN」という言葉が流行した。Value Added Networkの頭文字をとった略語で、日本語では、付加価値通信網と訳される。何が「付加価値」かというと、それまで通信といえば「音声」のやり取りを意味していたが、それに加えてさらに「データ」のやり取りを効率的に処理する点で、価値が加わっている、すなわち「付加価値」があるからだ。
もうひとつ「C&C」という言葉もよく耳にした。これは、Computer and Communicationsの頭文字をとった略語で、コンピュータと通信の融合による新しいビジネスを展望して、日本電機(NEC)が提唱した概念だ。通信自由化の背景には、「新しい技術で市場が拡大する」との期待があったといえるだろう。
パソコンとインターネットが変えた1990年代
これが1番目の変化だとすれば、2番目の変化は、通信自由化からおよそ10年経過した1990年代の半ばに起きた「インターネットとパソコン」による情報技術と通信技術の「一般への普及」だ。
それ以前は、コンピュータと通信の融合といっても、金融機関や大企業、官公庁などの限られた領域にとどまっていた。メインフレームと呼ばれる大型コンピュータは、とても一般家庭では購入することができず、データ通信も専用線による閉じたネットワークが主流であった。
この状況を劇的に変えたのが、パソコンとインターネットだ。ハードウェアやソフトウェアの技術開発によって、「誰でも買える」「誰でも使える」「誰とでもつながる」というオープンな情報ネットワーク環境が生まれ、利用のすそ野が飛躍的に広がった。
もう一つ重要な変化が起きていた。携帯電話が一般に普及し始めたことだ。当時は、日本でも利用する人はまだ数百万人程度で、通信の「脇役」に過ぎなかったが、後に大きな変化をもたらす源流が、この時期に生まれた。
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